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| 認知症患者は年々増え、2015年には250万人に達する見込み。ともに歩むため、地域ぐるみの支援が欠かせない(写真と本文は関係ありません) |
第1部 支えの場で (3) 認知症
地域に迷惑かけられない
二つの家は軒を接するように建っている。古い家々が密集し、こぢんまりまとまった地域。高齢化が一段と進み、路地にはもう子どもたちの歓声が聞こえない。
家を一歩出ると、隣の家にぼんやりと豆電球がともっている。「きょうは郵便物が来ていないね」。上野初実さん(72)=仮名=は今も、隣に一人住んでいた千葉房江さん(75)=同=のことが頭から離れない。
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認知症が進んだ千葉さんが津山市内のグループホームに入って一年がたつ。
「おしょうゆ貸して」と言い合って暮らしていた。もう半世紀の付き合いだ。上野さんが千葉さんに異変を感じ始めたのは四年前の二〇〇五年初め。夫を亡くした後だった。
生きがいがプツンと切れたようで、何も手につかなくなっていた。一日、こたつでテレビ。そのうち、夜になるとたびたび上野さんに訴えるようになった。「ちょっと見にきてん」。ネズミの走る音や風の音が、人の足音に聞こえたのだろうか。
ストーブに灯油を入れてほしいというお願いも頻繁になった。満タンにしても、その直後「入れて」と言ってくる。地域の人が通りかかれば裏口から声を掛けた。「社交性が豊かな部分は残っていて、一人でいるのが寂しかったんじゃろうなあ」と上野さんは言う。
当時、千葉さんのケアプランを立てていたのは、居宅介護支援事業所のケアマネジャー、立石千景さん(52)だった。
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訪問介護、デイサービス、訪問看護…。ケアマネは個々の状況や介護度に応じてケアプランを組み立てる。
千葉さんが〇六年四月の介護保険法改正前に「要支援」だった時、立石さんはホームヘルパーを週三回派遣した。法改正後に「要支援1」と判定されたあと認知症が急速に進み、「要介護1」になると、平日に五回の訪問介護と週三回のデイサービスを用意した。限度額ぎりぎりの範囲だ。
しかし、ヘルパーの訪問は一日に一時間半。デイサービスの利用日を除くと、三度の食事や定期的な薬の服用などは自分で管理しなければならない。その本人が認知症だったらどうなるのか。
「介護保険が提供するサービスは、身体機能が低下した人への援助が前提となっているのではないか」。立石さんはそう考える。
「痴呆(ちほう)症」の名称が個人の尊厳を損なうとして「認知症」に変更された翌年の〇五年、厚生労働省は認知症サポーター養成制度を提唱した。市町村が実施主体になり、講座を開く。〇七年から始めた岡山県は三年間で二万人を目指しているが、現在約一万人。地域で認知症を見守り支える試みは、まだ試行錯誤の中にある。
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〇八年が明け、千葉さんはグループホームに入所した。離れて暮らす家族には、地域に迷惑をかけられないという思いがあった。
自宅からグループホームまで車で数分。上野さんはしばしば千葉さんを訪ねる。通院に付き添い、時には一緒に自宅周辺を通る。
千葉さんが言う。「ここらがええんじゃ。なじみじゃけん」
(2009年2月12日朝刊掲載)
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