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揺れる移植医療
臓器移植法改正案をテーマにした超党派による国会議員勉強会。「脳死」の議論の出口は見えない=東京・永田町、衆議院第1議員会館
臓器移植法改正案をテーマにした超党派による国会議員勉強会。「脳死」の議論の出口は見えない=東京・永田町、衆議院第1議員会館
第5部 足踏み 9 脳死論議再び 国を二分、見えぬ出口

 今年のカンヌ国際映画祭でグランプリを受賞した日本映画「殯(もがり)の森」。死者を弔う伝統的儀式「殯」に託し、人間の生と死の接点を描いた。

 今月七日。東京・永田町の衆議院第一議員会館で開かれた超党派の会合「臓器移植法改正を考える国会議員勉強会」で、この映画が話題になった。

 認知症の男性とわが子を亡くした介護士の女性が喪失感にさいなまれながら森をさまよい、それぞれに亡き肉親との心のつながりを実感していくというストーリー。

 講師に招かれた光石忠敬弁護士=東京=は「映画で描かれていたような、人間の死を大切に考えていた歴史や文化が日本にはある」と語りかけた。

 そしてこう続けた。

 「でも今の改正案は(それと)一致しない」

   □   ■

 「脳死」は、人工呼吸器の発達が生んだ新たな「死」だ。

 二度と蘇生(そせい)しない、不可逆的な死であり、判定基準は一九八五年、旧厚生省研究班が公表した。深いこん睡、平たん脳波など五項目。竹内基準と呼ばれる。

 その後、この基準を基に「脳死は人の死」とし、脳死移植に道筋をつけたのは、九〇年に設置された脳死臨調だった。光石弁護士は同臨調で参与を務め、「科学的、論理的根拠がないため(脳死は人の死とは)認められない」と論陣を張った。主張は少数意見として、答申で異例の両論併記された。

 脳死について光石弁護士は「前倒しの死をつくろうとするのが改正A案。生きているのに、国家の意思で生存期間を切りつめていいのだろうか」と批判する。

 特に、家族の承諾で提供を可能にするなどの改正案(A案)には「数が少ないのでドナー(臓器提供者)を増やそうというもの。大変憂慮している」と言う。

   ■   □

 日本弁護士連合会は、今回の改正案提出に合わせ、二〇〇六年三月に意見書を発表。脳死を一律に死とみなしたり、臓器摘出や脳死判定の要件緩和に反対の立場をとる。

 理由の一つが長期脳死の存在だ。脳死になると通常、数日から一週間で心停止するといわれる。しかし、米・カリフォルニア大ロサンゼルス校のアラン・シューモン教授が九八年に発表した調査によると、数カ月、あるいは数年にわたって心停止に至らない「長期脳死」の症例が数多く報告されている。

 日弁連は、脳死を死とする生物学的・医学的根拠の再検討や、中立公正な機関を設立し、臓器移植の検証などを求めている。

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 もう一度、脳死臨調からやり直せばいい―。勉強会ではこんな発言も飛び出した。答申(九二年)から十五年を経てもなお、「死の概念」は国を二分する。“出口”が見える気配はない。

 さらに、こうした脳死論議に加え、移植医療全体の見直しが必要との議論もある。

 移植後の患者の健康状態▽医療コスト▽脳死判定の適切性▽インフォームドコンセント(十分な説明と同意)―。松本歯科大の倉持武教授(倫理学)は「こうしたあらゆる情報を公開し、国民に判断してもらうべき」と指摘する。

 「移植は救命から、患者のQOL(生活の質)向上へと拡大した。増え続ける(移植が必要な)透析患者をどう減らすかなども改正案の議論からは抜け落ちている。法律を変えても、需要に供給が追いつくことはないだろう」

 バックナンバー
第5部 足踏み
1 闘い ドナー少数 法に一因 (2007/6/12)
2 戸惑い 救命と脳死 どう対応 (2007/6/13)
3 見えない死 「答え」出すのは家族 (2007/6/14)
4 ダブルスタンダード 矛盾生み現場に混乱 (2007/6/15)
5 約束 カードに刻む妻の思い (2007/6/16)
6 グリーフケア ドナー家族に癒やし (2007/6/18)
7 二つの改正案 節目の年 行方見えず (2007/6/19)
8 15歳の壁 難しい脳死判定課題 (2007/6/20)
9 脳死論議再び 国を二分、見えぬ出口 (2007/6/21)
10 枠組み 専門機関の新設必要 (2007/6/22)
11 アジアの苦悩 進まぬ脳死への理解 (2007/6/24)
12 夢 免疫寛容の謎解明へ (2007/6/25)
13 宝物 問われる命のリレー (2007/6/26)

第4部 生体の光と影
1 プレゼント 元気くれた母の肝臓 (2007/5/25)
2 宿命 リスクと向き合う選択 (2007/5/27)
3 2人の肺 葛藤から感謝へ変化 (2007/5/28)
4 リスク ドナー死亡、再入院も (2007/5/30)
5 重圧 家族に暗黙の強制力 (2007/6/1)
6 ドナーの保護 法による規制不可欠 (2007/6/2)
7 ケアの要 患者、ドナーに安心を (2007/6/3)
8 現実 緊急避難 今や“主流” (2007/6/4)

第3部 アメリカからの報告
1 みらいちゃん 日本で打つ手なく渡航 (2007/4/17)
2 ジグソーパズル 多臓器 (2007/4/18)
3 ゴッド・ハンド 40年間 世界をリード (2007/4/21)
4 UNOSの今 臓器不足に対応苦慮 (2007/4/22)
5 腎疾患戦略 糖尿病の発症減らせ (2007/4/24)
6 “B級臓器” エイズ陽性でも活用 (2007/4/26)
7 ドナー交換 「生体」際限なく拡大 (2007/4/27)
8 ギフト・オブ・ライフ 脳死患者の情報機関 (2007/4/29)
9 報酬制度 臓器売買懸念の声も (2007/4/30)
10 誇り 生き続ける娘の遺志 (2007/5/1)
11 5%ルール 臓器不足に外国人枠 (2007/5/2)
12 ジレンマ 患者は増え続けるが… (2007/5/3)

緊急寄稿 病気腎をめぐって
1 日本移植学会理事 清水信義 提供者保護が不十分 (2007/4/3)
2 泌尿器科医 万波廉介 患者に希望与え得る (2007/4/4)
3 岡山大大学院教授 粟屋剛 問われる「真の倫理」 (2007/4/3)
4 岡山大名誉教授 折田薫三 自ら「第三の道」断つ (2007/4/6)

第2部 命をつなぐ
1 シャント 「いつだめになるか」 (2007/3/10)
2 人工腎臓 70年代 苦難の幕開け (2007/3/11)
3 不安 心通わせるケア必要 (2007/3/13)
4 高齢化 福祉との谷間であえぐ (2007/3/14)
5 腎疾患戦略 糖尿病の発症減らせ (2007/3/15)
6 贈り物 新たな“命”も授かる (2007/3/16)
7 ローカルネット ドナー求め病院巡り (2007/3/19)
8 実らぬ善意 脳死と混同、誤解も (2007/3/20)
9 ドナー発掘 献腎の実績に地域差 (2007/3/22)
10 選択肢 臓器提供の道伝える (2007/3/25)
11 うそ 新たな命に思い複雑 (2007/3/26)

第1部 病気腎の波紋
1 延長線 困っとる患者のために (2007/2/2)
2 原点 どうせ捨てる臓器なら (2007/2/3)
3 迷い 公表「がん」がネック (2007/2/4)
4 独自ルート 「宝くじ」の確率なら (2007/2/5)
5 ばらずし 海渡る感謝の気持ち (2007/2/6)
6 学会 歴史の中で原則築く (2007/2/8)
7 一人の世界 「怖いことやっている」 (2007/2/9)
8 ドナーの意思 かぎ握る自発的同意 (2007/2/11)
9 出合い頭 公平の原則どう保つ (2007/2/12)
10 臓器売買 「起こるべくして…」 (2007/2/15)
11 うねり 患者の立場から関心を (2007/2/17)
12 パイオニア 情報公開徹底が第一歩 (2007/2/18)

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