トップ>>特集>>揺れる移植医療 サイトマップ >お問い合わせ
揺れる移植医療
募金活動する川上莉奈ちゃんの祖母洋子さん(左から2人目)。現行法では15歳未満は海外でしか移植できない=2004年12月、岡山市
募金活動する川上莉奈ちゃんの祖母洋子さん(左から2人目)。現行法では15歳未満は海外でしか移植できない=2004年12月、岡山市
第5部 足踏み 8 15歳の壁 難しい脳死判定課題

 「本当に幸せです」

 徳島県鳴門市。川上莉奈ちゃん(5つ)の父琢磨さん(44)が声を弾ませた。

 莉奈ちゃんは三歳の時、心臓の筋力が弱まる拡張型心筋症のため、米国で心臓移植を行った。必要経費はざっと一億二千万円。祖母洋子さん=岡山市国府市場=らが街頭に立ち、徳島や岡山などで募金活動して集めた。

 「善意には感謝しているが、知らない国での移植は大変。なぜ、日本人が自分の国で移植できないのか。疑問を感じた」と洋子さん。

 苦難を乗り越え、今年四月、莉奈ちゃんは幼稚園に入園した。

   □   ■

 “十五歳の壁”―。わが国で子どもの移植が不可能なのは、臓器移植法が提供の意思表示の有効年齢を十五歳以上としているからだ。民法の遺言規定にならっている。

 今国会に提出されている二つの改正案は、この子どもの扱いが焦点の一つだ。

 「A案」(河野案)は、年齢に関係なく家族の承諾で提供でき、子どもの移植に全面的に道を開く。「B案」(斉藤案)は、意思表示できる年齢を十二歳以上に引き下げるにとどめた。

 内閣府が〇七年一月に発表した調査では、「十五歳未満からの臓器提供を認めるべき」と回答した人は68%いた。

 「大金を集めて日本人が海外に行く現状は改めなければ」。A案を中心でまとめた河野太郎衆院議員(自民)は言う。

 だが、当の医療側に、大きな戸惑いがある。

   ■   □

 「小児科医の意見は割れている」

 日本小児科学会の脳死臓器移植に関するワーキング委員長を務める清野佳紀・岡山大名誉教授(大阪厚生年金病院長)は話す。

 理由は、子どもの脳死判定の難しさだ。

 旧厚生省研究班は二〇〇〇年、六歳未満を対象にした初の脳死判定基準をまとめた。検査項目は同じだが、二回行う判定の間隔を「六時間」から「二十四時間以上」に大きく延ばした。

 子どもの脳は障害への抵抗力があり、回復も大人以上に期待できる。脳死診断後に一カ月以上生存する「長期脳死」の報告例もあり、未解明な部分が多い。

 「子どもの脳死判定は可能か」―。同学会の会員約一万八千人へのアンケートでは、「可能」は32%にとどまり、「不可能」が16%、「分からない」が49%を占めた。

 虐待の問題もある。虐待を医師が見逃し、脳死判定される恐れだ。

 同学会の調査では、一九九九年からの五年間に、虐待によって脳死状態や重度障害になった子どもは、全国の約七十医療機関で約百三十人、疑われるケースは約二百医療機関で約千四百五十人に上った。

 「虐待かどうかを判断する病院内の体制が整っていない現状で子どもの移植が行われたら、現場は混乱する」。清野名誉教授は危ぐする。

   □   ■

 <B案を数年間の期限付きで施行し、体制が整った後、より低年齢の小児に向けた移植を進めるべき>

 同学会は〇六年五月、法改正についての考え方を発表した。

 「しかし」と清野名誉教授は言う。

 「子どもが脳死になり、悲しみに暮れている親に、臓器提供を言い出せる小児科医が果たしているかどうか。法改正に関心がない医師も多い。仮に法案が通っても国内での移植はないかもしれない」

 バックナンバー
第5部 足踏み
1 闘い ドナー少数 法に一因 (2007/6/12)
2 戸惑い 救命と脳死 どう対応 (2007/6/13)
3 見えない死 「答え」出すのは家族 (2007/6/14)
4 ダブルスタンダード 矛盾生み現場に混乱 (2007/6/15)
5 約束 カードに刻む妻の思い (2007/6/16)
6 グリーフケア ドナー家族に癒やし (2007/6/18)
7 二つの改正案 節目の年 行方見えず (2007/6/19)
8 15歳の壁 難しい脳死判定課題 (2007/6/20)
9 脳死論議再び 国を二分、見えぬ出口 (2007/6/21)
10 枠組み 専門機関の新設必要 (2007/6/22)
11 アジアの苦悩 進まぬ脳死への理解 (2007/6/24)
12 夢 免疫寛容の謎解明へ (2007/6/25)
13 宝物 問われる命のリレー (2007/6/26)

第4部 生体の光と影
1 プレゼント 元気くれた母の肝臓 (2007/5/25)
2 宿命 リスクと向き合う選択 (2007/5/27)
3 2人の肺 葛藤から感謝へ変化 (2007/5/28)
4 リスク ドナー死亡、再入院も (2007/5/30)
5 重圧 家族に暗黙の強制力 (2007/6/1)
6 ドナーの保護 法による規制不可欠 (2007/6/2)
7 ケアの要 患者、ドナーに安心を (2007/6/3)
8 現実 緊急避難 今や“主流” (2007/6/4)

第3部 アメリカからの報告
1 みらいちゃん 日本で打つ手なく渡航 (2007/4/17)
2 ジグソーパズル 多臓器 (2007/4/18)
3 ゴッド・ハンド 40年間 世界をリード (2007/4/21)
4 UNOSの今 臓器不足に対応苦慮 (2007/4/22)
5 腎疾患戦略 糖尿病の発症減らせ (2007/4/24)
6 “B級臓器” エイズ陽性でも活用 (2007/4/26)
7 ドナー交換 「生体」際限なく拡大 (2007/4/27)
8 ギフト・オブ・ライフ 脳死患者の情報機関 (2007/4/29)
9 報酬制度 臓器売買懸念の声も (2007/4/30)
10 誇り 生き続ける娘の遺志 (2007/5/1)
11 5%ルール 臓器不足に外国人枠 (2007/5/2)
12 ジレンマ 患者は増え続けるが… (2007/5/3)

緊急寄稿 病気腎をめぐって
1 日本移植学会理事 清水信義 提供者保護が不十分 (2007/4/3)
2 泌尿器科医 万波廉介 患者に希望与え得る (2007/4/4)
3 岡山大大学院教授 粟屋剛 問われる「真の倫理」 (2007/4/3)
4 岡山大名誉教授 折田薫三 自ら「第三の道」断つ (2007/4/6)

第2部 命をつなぐ
1 シャント 「いつだめになるか」 (2007/3/10)
2 人工腎臓 70年代 苦難の幕開け (2007/3/11)
3 不安 心通わせるケア必要 (2007/3/13)
4 高齢化 福祉との谷間であえぐ (2007/3/14)
5 腎疾患戦略 糖尿病の発症減らせ (2007/3/15)
6 贈り物 新たな“命”も授かる (2007/3/16)
7 ローカルネット ドナー求め病院巡り (2007/3/19)
8 実らぬ善意 脳死と混同、誤解も (2007/3/20)
9 ドナー発掘 献腎の実績に地域差 (2007/3/22)
10 選択肢 臓器提供の道伝える (2007/3/25)
11 うそ 新たな命に思い複雑 (2007/3/26)

第1部 病気腎の波紋
1 延長線 困っとる患者のために (2007/2/2)
2 原点 どうせ捨てる臓器なら (2007/2/3)
3 迷い 公表「がん」がネック (2007/2/4)
4 独自ルート 「宝くじ」の確率なら (2007/2/5)
5 ばらずし 海渡る感謝の気持ち (2007/2/6)
6 学会 歴史の中で原則築く (2007/2/8)
7 一人の世界 「怖いことやっている」 (2007/2/9)
8 ドナーの意思 かぎ握る自発的同意 (2007/2/11)
9 出合い頭 公平の原則どう保つ (2007/2/12)
10 臓器売買 「起こるべくして…」 (2007/2/15)
11 うねり 患者の立場から関心を (2007/2/17)
12 パイオニア 情報公開徹底が第一歩 (2007/2/18)

トップへ>>

 ご意見
 ご意見は〒700-8734、山陽新聞臓器移植取材班=ファクス(086-244-4923)、電子メール(shakai@sanyo.oni.co.jp)。匿名可ですが、連絡先を明記してください。


[ 戻る ]
 [ 山陽新聞社ホームページへ ]

掲載の記事・写真及び、図版の無断転記を禁じます。すべての著作権は山陽新聞社、共同通信社、寄稿者に帰属します。
Copyright © 1996-2012 The Sanyo Shimbun. All Rights Reserved.