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揺れる移植医療
「家族の承諾で提供できる」とするA案をまとめた河野太郎衆院議員。臓器移植法改正の行方はまだ見えない=東京・永田町、議員会館
「家族の承諾で提供できる」とするA案をまとめた河野太郎衆院議員。臓器移植法改正の行方はまだ見えない=東京・永田町、議員会館
第5部 足踏み 7 二つの改正案 節目の年 行方見えず

 東京・永田町。国会議事堂前にある議員会館で、河野太郎衆院議員(自民)は五年前、自ら下した決断を語る。

 「このままだと、おやじはだめになる。助けるには、長男のおれが腹を切る」

 二〇〇二年四月十六日。長野県の信州大病院で親子間の生体肝移植が行われた。肝硬変になった父、河野洋平元外相=当時、現衆院議長=に、太郎氏が肝臓を提供した。現職の国会議員父子として注目を集めた。

 洋平氏は順調に回復。しかし、太郎氏は手術後、こう疑問を持つ。

 「本来、肝臓移植の道は脳死と生体の二つ。だが日本では(脳死が少なく)生体しか選べないのが現実だ。明らかに異常事態。法改正を進めなきゃならない」

   □   ■

 臓器移植法施行(一九九七年)から十年の今年、国会に二つの改正案が提出されている。

 一つは、太郎氏らがまとめた「A案」。本人が脳死判定を拒否している場合を除き、原則として脳死を人の死と定め、臓器提供は本人の拒否がなければ年齢に関係なく、家族の承諾だけで可能とする。

 もう一つの「B案」は、斉藤鉄夫衆院議員(公明)らが作成した。A案では社会的合意が得られにくいため、死の定義や提供要件は現行法のまま、意思表示できる年齢を十五歳以上から十二歳以上に引き下げる。

 両案とも、患者団体や移植医らの要望を生かす形で現行法の要件を緩和し、提供臓器を増やすのが目的だ。

 二つの法案について太郎氏は「B案では絶対にだめ。家族の同意だけで可能にしないと移植は増えない」と強調する。

 「葬式だって死後、家族が決める。脳死移植も同じ。これは国際標準だ」。独自の試算では、提供者は七倍以上に増える可能性があるとみる。

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 脳死という新しい死の概念を認め、臓器移植に道を開く―。臓器移植法は、国を二分する激しい論争の末の“折衷案”として誕生した。

 一度は、「脳死を一律に人の死」とする法案が衆院を通過した。しかし、反対・慎重論を考慮し、「提供者の意思表示」や「臓器提供の場合に限り脳死を人の死とする」ことが修正で加わり、成立した経緯がある。

 結果的に原案は大きく“後退”し、提供基準も厳格化された。当初から移植は伸び悩むと言われた。

 法律では、施行後三年をめどに見直しが行われるはずだったが、〇五年八月、具体的な改正案(A、B案)が国会に提出されるにとどまっている。

 「空白の十年間」―。日本移植者協議会の大久保通方理事長の目には「国は臓器移植を進める気がない」と映る。

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 「だからこそ、議論が必要。日本の移植医療をどうしていくか、国民や医学界と真剣に考えなければ」。太郎氏はいう。

 大久保理事長は「これまで、法改正に向けてさまざまな活動をしてきた。でも、資金的にも精神的にも限界。節目を迎える今年がラストチャンスなんです」と話す。

 政府・与党は衆院厚生労働委員会に二つの改正案を審議する小委員会を設置。今秋の臨時国会で成立を目指す方針だという。

 〇五年に提出された法案は直後の郵政解散で廃案になった。今国会は参院選前の嵐の中で揺れている。改正案には批判的な声が根強い。臓器移植法の改正はなお宙に浮いたままだ。

 バックナンバー
第5部 足踏み
1 闘い ドナー少数 法に一因 (2007/6/12)
2 戸惑い 救命と脳死 どう対応 (2007/6/13)
3 見えない死 「答え」出すのは家族 (2007/6/14)
4 ダブルスタンダード 矛盾生み現場に混乱 (2007/6/15)
5 約束 カードに刻む妻の思い (2007/6/16)
6 グリーフケア ドナー家族に癒やし (2007/6/18)
7 二つの改正案 節目の年 行方見えず (2007/6/19)
8 15歳の壁 難しい脳死判定課題 (2007/6/20)
9 脳死論議再び 国を二分、見えぬ出口 (2007/6/21)
10 枠組み 専門機関の新設必要 (2007/6/22)
11 アジアの苦悩 進まぬ脳死への理解 (2007/6/24)
12 夢 免疫寛容の謎解明へ (2007/6/25)
13 宝物 問われる命のリレー (2007/6/26)

第4部 生体の光と影
1 プレゼント 元気くれた母の肝臓 (2007/5/25)
2 宿命 リスクと向き合う選択 (2007/5/27)
3 2人の肺 葛藤から感謝へ変化 (2007/5/28)
4 リスク ドナー死亡、再入院も (2007/5/30)
5 重圧 家族に暗黙の強制力 (2007/6/1)
6 ドナーの保護 法による規制不可欠 (2007/6/2)
7 ケアの要 患者、ドナーに安心を (2007/6/3)
8 現実 緊急避難 今や“主流” (2007/6/4)

第3部 アメリカからの報告
1 みらいちゃん 日本で打つ手なく渡航 (2007/4/17)
2 ジグソーパズル 多臓器 (2007/4/18)
3 ゴッド・ハンド 40年間 世界をリード (2007/4/21)
4 UNOSの今 臓器不足に対応苦慮 (2007/4/22)
5 腎疾患戦略 糖尿病の発症減らせ (2007/4/24)
6 “B級臓器” エイズ陽性でも活用 (2007/4/26)
7 ドナー交換 「生体」際限なく拡大 (2007/4/27)
8 ギフト・オブ・ライフ 脳死患者の情報機関 (2007/4/29)
9 報酬制度 臓器売買懸念の声も (2007/4/30)
10 誇り 生き続ける娘の遺志 (2007/5/1)
11 5%ルール 臓器不足に外国人枠 (2007/5/2)
12 ジレンマ 患者は増え続けるが… (2007/5/3)

緊急寄稿 病気腎をめぐって
1 日本移植学会理事 清水信義 提供者保護が不十分 (2007/4/3)
2 泌尿器科医 万波廉介 患者に希望与え得る (2007/4/4)
3 岡山大大学院教授 粟屋剛 問われる「真の倫理」 (2007/4/3)
4 岡山大名誉教授 折田薫三 自ら「第三の道」断つ (2007/4/6)

第2部 命をつなぐ
1 シャント 「いつだめになるか」 (2007/3/10)
2 人工腎臓 70年代 苦難の幕開け (2007/3/11)
3 不安 心通わせるケア必要 (2007/3/13)
4 高齢化 福祉との谷間であえぐ (2007/3/14)
5 腎疾患戦略 糖尿病の発症減らせ (2007/3/15)
6 贈り物 新たな“命”も授かる (2007/3/16)
7 ローカルネット ドナー求め病院巡り (2007/3/19)
8 実らぬ善意 脳死と混同、誤解も (2007/3/20)
9 ドナー発掘 献腎の実績に地域差 (2007/3/22)
10 選択肢 臓器提供の道伝える (2007/3/25)
11 うそ 新たな命に思い複雑 (2007/3/26)

第1部 病気腎の波紋
1 延長線 困っとる患者のために (2007/2/2)
2 原点 どうせ捨てる臓器なら (2007/2/3)
3 迷い 公表「がん」がネック (2007/2/4)
4 独自ルート 「宝くじ」の確率なら (2007/2/5)
5 ばらずし 海渡る感謝の気持ち (2007/2/6)
6 学会 歴史の中で原則築く (2007/2/8)
7 一人の世界 「怖いことやっている」 (2007/2/9)
8 ドナーの意思 かぎ握る自発的同意 (2007/2/11)
9 出合い頭 公平の原則どう保つ (2007/2/12)
10 臓器売買 「起こるべくして…」 (2007/2/15)
11 うねり 患者の立場から関心を (2007/2/17)
12 パイオニア 情報公開徹底が第一歩 (2007/2/18)

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