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揺れる移植医療
傷つき、置き去りにされがちなドナー家族。わが国では十分なグリーフケアもなされていない
傷つき、置き去りにされがちなドナー家族。わが国では十分なグリーフケアもなされていない
第5部 足踏み 6 グリーフケア ドナー家族に癒やし

 二〇〇六年九月。札幌市で開かれた「ドナーファミリーの会」の集い。肉親が脳死ドナー(臓器提供者)になった十一家族が、胸の奥にしまった思いを吐きだした。

 「(提供した)娘はどこかでまだ、生きている」。別れを無理に納得しようとする父親。

 「臓器を金で売ったのかとか、肉親の体に傷をつけるなんて、と陰口をたたかれた」。ある人はあらぬ中傷に悔しさをにじませた。

 家族の死が受容できない。無償の行為が誤解される―。「そんな傷ついた家族を支えることができるのは、同じ体験を持つ家族だけなんです」

 二〇〇〇年に妻の臓器提供に同意した野沢一郎さん(72)=仮名、北海道=が話す。会の発起人として、交流の窓口役を務める。

 「ドナー家族の悲しみをだれがケアするのか。日本では、そのことが置き去りになっている」

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 臓器移植法施行(一九九七年)以来、脳死提供に臨んだ家族は五十六家族。だが、新たに「命」が吹き込まれるレシピエント(移植患者)と比べると、ドナーや家族への社会の関心は乏しい。欧米で普及する、死別の悲しみを癒やす「グリーフケア」(悲嘆に暮れる家族のケア)も、これまでほとんどなかった。

 厚生労働省は〇五年から、精神科医や心理学者らの聞き取りによるドナー家族の心情把握をようやく本格化させた。

 日本臓器移植ネットワーク(移植ネット)も、コーディネーターが患者の「サンクスレター(感謝を込めた手紙)」を届けたり、電話で近況を聞くなどのフォローをしている。だが、コーディネーターは全国でわずか約二十人。細かなケアまでとても手は回らない。

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 年間約八千人の脳死ドナーが現れるアメリカ。州によっては家族の癒やしにつなげるため、移植患者との面会の機会を設けるところもある。元気な姿を見れば、ドナーが果たした「ギフト・オブ・ライフ(命の贈り物)」の尊さを実感できるからだ。

 ただ、患者と直接会うことには、野沢さんは否定的だ。「命をもらった側」に心理的な負担がかかる恐れがあるという。

 「でも、ドナー家族の中には『会いたい』という人もいる。スポーツやさまざまな場で、移植患者が元気な姿をもっとアピールする機会が増えてもいいのではないか」

 三菱化学生命科学研究所(東京)の〓ぬで島次郎研究員(46)は「提供後のケアが充実していないと、医療側も肉親の死に向き合う家族に切り出しにくい」と指摘。「臓器移植は技術的な面では確立されているが、ケアを含めたトータルでみるとまだまだ不十分」という。

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 「天国で見守っているご主人のために、元気を出してください。私たちがこうして出会えたのはご主人のおかげです。何でも相談してください」

 野沢さんは、連絡が取れるドナー家族に年に二百~三百通の手紙を送る。メールだと、千通近くになる。いつもある返信がなかったり、文脈が乱れたメールが返ってくることも多い。相手の苦しみが、そこから伝わってくる。

 匿名性の原則で、移植ネットはドナー家族の情報を公にしていない。移植ネットに仲介を頼み、これまでに約二十家族と連絡が取れた。

 「同じ境遇だから言えるんです。『苦しさ、つらさを乗り越えることで、大きな喜びも得られるんです』と」

(注)〓は「木」の右に「勝」

 バックナンバー
第5部 足踏み
1 闘い ドナー少数 法に一因 (2007/6/12)
2 戸惑い 救命と脳死 どう対応 (2007/6/13)
3 見えない死 「答え」出すのは家族 (2007/6/14)
4 ダブルスタンダード 矛盾生み現場に混乱 (2007/6/15)
5 約束 カードに刻む妻の思い (2007/6/16)
6 グリーフケア ドナー家族に癒やし (2007/6/18)
7 二つの改正案 節目の年 行方見えず (2007/6/19)
8 15歳の壁 難しい脳死判定課題 (2007/6/20)
9 脳死論議再び 国を二分、見えぬ出口 (2007/6/21)
10 枠組み 専門機関の新設必要 (2007/6/22)
11 アジアの苦悩 進まぬ脳死への理解 (2007/6/24)
12 夢 免疫寛容の謎解明へ (2007/6/25)
13 宝物 問われる命のリレー (2007/6/26)

第4部 生体の光と影
1 プレゼント 元気くれた母の肝臓 (2007/5/25)
2 宿命 リスクと向き合う選択 (2007/5/27)
3 2人の肺 葛藤から感謝へ変化 (2007/5/28)
4 リスク ドナー死亡、再入院も (2007/5/30)
5 重圧 家族に暗黙の強制力 (2007/6/1)
6 ドナーの保護 法による規制不可欠 (2007/6/2)
7 ケアの要 患者、ドナーに安心を (2007/6/3)
8 現実 緊急避難 今や“主流” (2007/6/4)

第3部 アメリカからの報告
1 みらいちゃん 日本で打つ手なく渡航 (2007/4/17)
2 ジグソーパズル 多臓器 (2007/4/18)
3 ゴッド・ハンド 40年間 世界をリード (2007/4/21)
4 UNOSの今 臓器不足に対応苦慮 (2007/4/22)
5 腎疾患戦略 糖尿病の発症減らせ (2007/4/24)
6 “B級臓器” エイズ陽性でも活用 (2007/4/26)
7 ドナー交換 「生体」際限なく拡大 (2007/4/27)
8 ギフト・オブ・ライフ 脳死患者の情報機関 (2007/4/29)
9 報酬制度 臓器売買懸念の声も (2007/4/30)
10 誇り 生き続ける娘の遺志 (2007/5/1)
11 5%ルール 臓器不足に外国人枠 (2007/5/2)
12 ジレンマ 患者は増え続けるが… (2007/5/3)

緊急寄稿 病気腎をめぐって
1 日本移植学会理事 清水信義 提供者保護が不十分 (2007/4/3)
2 泌尿器科医 万波廉介 患者に希望与え得る (2007/4/4)
3 岡山大大学院教授 粟屋剛 問われる「真の倫理」 (2007/4/3)
4 岡山大名誉教授 折田薫三 自ら「第三の道」断つ (2007/4/6)

第2部 命をつなぐ
1 シャント 「いつだめになるか」 (2007/3/10)
2 人工腎臓 70年代 苦難の幕開け (2007/3/11)
3 不安 心通わせるケア必要 (2007/3/13)
4 高齢化 福祉との谷間であえぐ (2007/3/14)
5 腎疾患戦略 糖尿病の発症減らせ (2007/3/15)
6 贈り物 新たな“命”も授かる (2007/3/16)
7 ローカルネット ドナー求め病院巡り (2007/3/19)
8 実らぬ善意 脳死と混同、誤解も (2007/3/20)
9 ドナー発掘 献腎の実績に地域差 (2007/3/22)
10 選択肢 臓器提供の道伝える (2007/3/25)
11 うそ 新たな命に思い複雑 (2007/3/26)

第1部 病気腎の波紋
1 延長線 困っとる患者のために (2007/2/2)
2 原点 どうせ捨てる臓器なら (2007/2/3)
3 迷い 公表「がん」がネック (2007/2/4)
4 独自ルート 「宝くじ」の確率なら (2007/2/5)
5 ばらずし 海渡る感謝の気持ち (2007/2/6)
6 学会 歴史の中で原則築く (2007/2/8)
7 一人の世界 「怖いことやっている」 (2007/2/9)
8 ドナーの意思 かぎ握る自発的同意 (2007/2/11)
9 出合い頭 公平の原則どう保つ (2007/2/12)
10 臓器売買 「起こるべくして…」 (2007/2/15)
11 うねり 患者の立場から関心を (2007/2/17)
12 パイオニア 情報公開徹底が第一歩 (2007/2/18)

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