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| 免疫寛容について研究する京都大のスタッフ。他人の臓器を自己とみなすメカニズムの解明が待たれる |
第5部 足踏み 12 夢 免疫寛容の謎解明へ
その日は、主治医の一言で訪れた。「もう飲まなくていいですよ」
二〇〇三年一月。有路佳子さん(42)=岡山市東山=の長男知晃さん(16)は、この時、八年間飲み続けた免疫抑制剤から完全に解放された。「免疫寛容(トレランス)」になったと診断された瞬間だった。
知晃さんは三歳の時、劇症肝炎で肝不全に陥り、母の肝臓の一部を京都大病院で生体移植した。
人の体は他人の臓器を異物とみなして攻撃する「免疫機能」を持つ。拒絶反応だ。このため移植患者は、免疫抑制剤を生涯飲み続けなければならない。だが、そのために免疫機能が弱まると、ちょっとした感染症で命にかかわる危険な状態を招きかねない。臓器移植が抱える大きなリスクの一つだ。
免疫抑制剤から解放されることは、移植医療にとって長年の「夢」だった。
ところが、知晃さんは飲んでいた二種類の免疫抑制剤の量を、主治医の指示で徐々に減らし、その日を迎えた。
「薬をやめるなんて、想像もできなかった」と有路さんは振り返る。
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なぜ、他人の臓器を「自己」として受け入れる免疫寛容が起きるのか。
京都大大学院の小柴貴明准教授のグループは、これまで実験レベルでは知られていたその現象のメカニズムを追い続けてきた。
その結果、免疫機能を抑制する働きを持つ細胞の一つ「制御性T細胞」が肝臓内で増加し、リンパ球の働きを抑えていることを世界で初めて実証した。また、別の「ガンマデルタ細胞」も同様に関与していることを特定。いずれか、または両方の細胞が増えれば、免疫寛容の状態が起こることを突き止めた。
同大が一九九〇年以降に手掛けた生体肝移植は千例以上。このうち小児患者の約九十人が免疫寛容になり、約六十人の子どもたちがその状態に近づいている。
「小児患者のうち、生体肝移植で免疫寛容になる率は15%。世界でも特に高い数字です」と小柴准教授は言う。
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米ペンシルベニア州のピッツバーグ大。世界で初めて肝臓移植の扉を開けたことで知られるトーマス・スターツル教授は、移植医療が克服すべき未来の課題として、再生医療などとともに「免疫寛容」の研究を挙げる。
移植患者の状態をみながら免疫抑制剤を徐々に減らしていく京都大病院の試みは、その夢に一歩近づいた。しかし、メカニズムがすべて解明されたわけではない。
免疫寛容が起きるのはほとんど子どもに限られる。京都大では、成人は一例のみ。かぎを握る制御性T細胞は、十五歳前後から機能が消失していく胸腺(きょうせん)でつくられているとみられるが、まだ謎の部分が多い。
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九七年の臓器移植法施行から十年。圧倒的な臓器不足の中で足踏みする移植医療の現状にあって、免疫寛容へのアプローチは一筋の光明に見える。
京都大の研究は次の段階に入っている。どうやって免疫寛容を起こすかだ。
マウスの実験では、血液から採取した制御性T細胞を大量培養して体内に戻すと、皮膚移植しても拒絶反応を抑え込むことができた。昨春からはより大きなブタでの実験もスタートした。
小柴准教授が語る。「小腸や肺など他の臓器にも応用し、あらゆる移植患者で実現させるのが最終目標です」
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