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揺れる移植医療
東アジアの臓器移植の現状が報告された日中韓シンポ。移植をはばむ問題や連携の可能性などを探った=2月、九州大
東アジアの臓器移植の現状が報告された日中韓シンポ。移植をはばむ問題や連携の可能性などを探った=2月、九州大
第5部 足踏み 11 アジアの苦悩 進まぬ脳死への理解

 「ドナー(臓器提供者)は提供行為に対し、社会から『感謝の贈り物』を受けられる。決して臓器売買ではない」

 五月下旬、「臓器売買が問いかけるもの―アジアの苦悩」をテーマに九州大(福岡市)で開かれたシンポジウム。フィリピン国立腎臓・移植研究所のエンリケ・オナ所長は、生体腎移植をめぐって同国が検討中の新制度について語った。

 計画では、臓器提供を受けた外国人は窓口となる「腎臓基金」に対し、休職手当や医療費などドナーへの“謝礼”を含めて数百万円を支払う。

 背景にあるのは貧困と、悪徳ブローカーが横行する闇の売買だ。政府はドナーを一括管理することで、支援を手厚くし、貧困解消にもつなげたいとする。

 「(金銭のやり取りを)全面禁止すれば地下に潜ってしまう」とエンリケ所長は強調した。

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 事実上、臓器売買の「公認」といえる措置をフィリピンが取らざるを得ない事情には、日本も深く関係している。

 国内で移植が難しい日本人が、臓器を求めてアジアへ渡航する現実だ。厚生労働省の研究班の調査では、過去に約百五十人が中国やフィリピン、韓国などアジアで腎移植していた。

 インドでの臓器売買の実態や、死刑囚がドナーの大半を占める中国の現状を調査してきた岡山大大学院医歯薬学総合研究科の粟屋剛教授(56)=生命倫理学=は今年五月、フィリピンの貧困地区などで生体ドナー七十二人に聞き取りを行った。その結果、少なくとも十人の日本人が腎臓を購入した疑いが強まった。

 国際的な批判から、中国は今年に入り外国人への臓器提供を禁止した。このためフィリピンに向かう日本人は、さらに増す可能性もある。

 「アジアで起きる臓器売買などの根底には、日本と共通の事情がある。善意の死体ドナーがほとんどいないことだ」と粟屋教授は言う。

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 九州大では二月にも、脳死移植や生命倫理などについて考える「日中韓シンポジウム」が開かれている。東アジアの医師や倫理学者らが集まって、脳死を含む死体移植が増えない背景を探った。

 「わが国には脳死という概念への国民のコンセンサスがない」(中国の医師)。「儒教の影響から、体を傷つけることを家族が嫌がる」(韓国の医科大教授)。「脳死を『人の死』として理解しがたい人が多い」(同)―。会場からはそんな声が上がった。

 中国では、年間六千―八千例の腎移植が行われるが、脳死は他の臓器を含めても数十例しかない。一九九九年に臓器移植法ができた韓国。脳死は全移植の約二割(百四十一例)=二〇〇六年=で、日本同様、その数は伸び悩む。

 参加した粟屋教授は、こんな見方も示した。「アジアでは、(他人に臓器をあげる)キリスト教的な『博愛主義』の文化が育っていない国も目立つ」

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 二回にわたるシンポでは、アジア各国の連携を模索する声も出た。

 「まずは東アジアで、移植をめぐる共通の新しい倫理観をはぐくむことができないだろうか」と九州大病院腎疾患治療部の杉谷篤准教授。

 ヨーロッパには、数カ国が参加する多国間の臓器移植ネットワーク(ユーロトランスプラント)がある。「アジアでも将来は、国境を越えたネットワークにつながればいいのだが…」と杉谷准教授は言う。

 バックナンバー
第5部 足踏み
1 闘い ドナー少数 法に一因 (2007/6/12)
2 戸惑い 救命と脳死 どう対応 (2007/6/13)
3 見えない死 「答え」出すのは家族 (2007/6/14)
4 ダブルスタンダード 矛盾生み現場に混乱 (2007/6/15)
5 約束 カードに刻む妻の思い (2007/6/16)
6 グリーフケア ドナー家族に癒やし (2007/6/18)
7 二つの改正案 節目の年 行方見えず (2007/6/19)
8 15歳の壁 難しい脳死判定課題 (2007/6/20)
9 脳死論議再び 国を二分、見えぬ出口 (2007/6/21)
10 枠組み 専門機関の新設必要 (2007/6/22)
11 アジアの苦悩 進まぬ脳死への理解 (2007/6/24)
12 夢 免疫寛容の謎解明へ (2007/6/25)
13 宝物 問われる命のリレー (2007/6/26)

第4部 生体の光と影
1 プレゼント 元気くれた母の肝臓 (2007/5/25)
2 宿命 リスクと向き合う選択 (2007/5/27)
3 2人の肺 葛藤から感謝へ変化 (2007/5/28)
4 リスク ドナー死亡、再入院も (2007/5/30)
5 重圧 家族に暗黙の強制力 (2007/6/1)
6 ドナーの保護 法による規制不可欠 (2007/6/2)
7 ケアの要 患者、ドナーに安心を (2007/6/3)
8 現実 緊急避難 今や“主流” (2007/6/4)

第3部 アメリカからの報告
1 みらいちゃん 日本で打つ手なく渡航 (2007/4/17)
2 ジグソーパズル 多臓器 (2007/4/18)
3 ゴッド・ハンド 40年間 世界をリード (2007/4/21)
4 UNOSの今 臓器不足に対応苦慮 (2007/4/22)
5 腎疾患戦略 糖尿病の発症減らせ (2007/4/24)
6 “B級臓器” エイズ陽性でも活用 (2007/4/26)
7 ドナー交換 「生体」際限なく拡大 (2007/4/27)
8 ギフト・オブ・ライフ 脳死患者の情報機関 (2007/4/29)
9 報酬制度 臓器売買懸念の声も (2007/4/30)
10 誇り 生き続ける娘の遺志 (2007/5/1)
11 5%ルール 臓器不足に外国人枠 (2007/5/2)
12 ジレンマ 患者は増え続けるが… (2007/5/3)

緊急寄稿 病気腎をめぐって
1 日本移植学会理事 清水信義 提供者保護が不十分 (2007/4/3)
2 泌尿器科医 万波廉介 患者に希望与え得る (2007/4/4)
3 岡山大大学院教授 粟屋剛 問われる「真の倫理」 (2007/4/3)
4 岡山大名誉教授 折田薫三 自ら「第三の道」断つ (2007/4/6)

第2部 命をつなぐ
1 シャント 「いつだめになるか」 (2007/3/10)
2 人工腎臓 70年代 苦難の幕開け (2007/3/11)
3 不安 心通わせるケア必要 (2007/3/13)
4 高齢化 福祉との谷間であえぐ (2007/3/14)
5 腎疾患戦略 糖尿病の発症減らせ (2007/3/15)
6 贈り物 新たな“命”も授かる (2007/3/16)
7 ローカルネット ドナー求め病院巡り (2007/3/19)
8 実らぬ善意 脳死と混同、誤解も (2007/3/20)
9 ドナー発掘 献腎の実績に地域差 (2007/3/22)
10 選択肢 臓器提供の道伝える (2007/3/25)
11 うそ 新たな命に思い複雑 (2007/3/26)

第1部 病気腎の波紋
1 延長線 困っとる患者のために (2007/2/2)
2 原点 どうせ捨てる臓器なら (2007/2/3)
3 迷い 公表「がん」がネック (2007/2/4)
4 独自ルート 「宝くじ」の確率なら (2007/2/5)
5 ばらずし 海渡る感謝の気持ち (2007/2/6)
6 学会 歴史の中で原則築く (2007/2/8)
7 一人の世界 「怖いことやっている」 (2007/2/9)
8 ドナーの意思 かぎ握る自発的同意 (2007/2/11)
9 出合い頭 公平の原則どう保つ (2007/2/12)
10 臓器売買 「起こるべくして…」 (2007/2/15)
11 うねり 患者の立場から関心を (2007/2/17)
12 パイオニア 情報公開徹底が第一歩 (2007/2/18)

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