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揺れる移植医療
厳しい財政の中、普及啓発やあっせんを担う移植ネット本部。キャンペーンなどさまざまな活動も行っているのだが…=東京・港区
厳しい財政の中、普及啓発やあっせんを担う移植ネット本部。キャンペーンなどさまざまな活動も行っているのだが…=東京・港区
第5部 足踏み 10 枠組み 専門機関の新設必要

 霞が関に隣接する東京都港区の官庁街。メーン通りから一歩入ったオフィスビルに、日本臓器移植ネットワーク本部はある。

 一九九七年、前身の日本腎臓移植ネットワークが改組し誕生した。国内唯一の臓器あっせん機関だ。

 だが、その台所事情は厳しい。〇四年度は四千百万円、〇五年度は七百万円の赤字。国からの補助や寄付などで賄う年間約十二億円の予算は、人件費や普及啓発費、研修費、あっせんの経費などに消え、余力はない。

 「活動を充実させるには財政支援がまだまだ必要」。広報・普及啓発部の雁瀬美佐副部長が打ち明ける。

 専属コーディネーターは約二十人。各都道府県に最低一人いる自治体コーディネーターと協力、全国をカバーするが、「動けば動くほど赤字になる」との嘆きも漏れる。

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 欧米の移植システムに詳しい篠崎尚史・東京歯科大角膜センター長も、移植ネットの基盤のぜい弱さを憂う。移植先進国の米国と比較すると、その差は歴然だ。

 米国では、移植促進政策を進めるHRSA(保健資源サービス庁)が年間約三十五億円の広報予算を握り、日本の移植ネットに相当するUNOS(全米臓器配分ネットワーク)へも予算を配分。全米に張り巡らした五十八の地域臓器調達機関には、それぞれ数十人単位のコーディネーターが配置される。

 「わが国の移植ネットはあっせんだけで手いっぱい。普及啓発まで手が回らない。米国のように、ドナーが出るように病院をマネジメントする体制も取れない。金も人も全然足りない」。篠崎センター長は言う。

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 「わが国の臓器移植の低迷は、個人の意識のありようというより、社会制度上の問題」―。

 二〇〇五年五月。文部科学省の付属機関「科学技術政策研究所」(東京都)が臓器移植に関する提言をまとめた。国の科学技術政策を決める内閣府所管「総合科学技術会議」のシンクタンク的役割も果たしている。

 提言は、臓器移植法施行後に提供が伸び悩む原因を、移植制度の骨組みをなす組織体制そのものに求めた。つまり、あっせん業務をになう移植ネットと、移植政策を推進する厚生労働省臓器移植対策室だ。牧山康志客員研究官は言う。

 「移植ネットには制度を主導できる法的根拠がなく、移植医療全体を管理することができない。一方、臓器移植対策室は職員が短期間で異動、専門性が蓄積されないため、組織としての判断能力などに困難が生じる」

 その上で「例えば公正取引委員会のような、高い独立性と透明性、そして権限を持った移植専門機関の新設が必要だ」と訴える。

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 現在、国会では二つの臓器移植法改正案が審議入りした。家族の承諾で提供が可能になる「A案」だと、年間の臓器提供は二十~三十件増えるとみられる。移植ネット関係者は「ますますマンパワーが不足する」と危惧(きぐ)する。

 今年三月、石川県で開かれた日本臨床腎移植学会のシンポジウム。法改正の影響を討議した中で、参加したコーディネーターからは「今後提供が増えても対応できない」との声が上がった。

 「臓器移植法をいくら改正しても、フレーム(枠組み)を変えないと根本的に(臓器不足は)解決しない」

 牧山客員研究官は強く見直しを求める。

 バックナンバー
第5部 足踏み
1 闘い ドナー少数 法に一因 (2007/6/12)
2 戸惑い 救命と脳死 どう対応 (2007/6/13)
3 見えない死 「答え」出すのは家族 (2007/6/14)
4 ダブルスタンダード 矛盾生み現場に混乱 (2007/6/15)
5 約束 カードに刻む妻の思い (2007/6/16)
6 グリーフケア ドナー家族に癒やし (2007/6/18)
7 二つの改正案 節目の年 行方見えず (2007/6/19)
8 15歳の壁 難しい脳死判定課題 (2007/6/20)
9 脳死論議再び 国を二分、見えぬ出口 (2007/6/21)
10 枠組み 専門機関の新設必要 (2007/6/22)
11 アジアの苦悩 進まぬ脳死への理解 (2007/6/24)
12 夢 免疫寛容の謎解明へ (2007/6/25)
13 宝物 問われる命のリレー (2007/6/26)

第4部 生体の光と影
1 プレゼント 元気くれた母の肝臓 (2007/5/25)
2 宿命 リスクと向き合う選択 (2007/5/27)
3 2人の肺 葛藤から感謝へ変化 (2007/5/28)
4 リスク ドナー死亡、再入院も (2007/5/30)
5 重圧 家族に暗黙の強制力 (2007/6/1)
6 ドナーの保護 法による規制不可欠 (2007/6/2)
7 ケアの要 患者、ドナーに安心を (2007/6/3)
8 現実 緊急避難 今や“主流” (2007/6/4)

第3部 アメリカからの報告
1 みらいちゃん 日本で打つ手なく渡航 (2007/4/17)
2 ジグソーパズル 多臓器 (2007/4/18)
3 ゴッド・ハンド 40年間 世界をリード (2007/4/21)
4 UNOSの今 臓器不足に対応苦慮 (2007/4/22)
5 腎疾患戦略 糖尿病の発症減らせ (2007/4/24)
6 “B級臓器” エイズ陽性でも活用 (2007/4/26)
7 ドナー交換 「生体」際限なく拡大 (2007/4/27)
8 ギフト・オブ・ライフ 脳死患者の情報機関 (2007/4/29)
9 報酬制度 臓器売買懸念の声も (2007/4/30)
10 誇り 生き続ける娘の遺志 (2007/5/1)
11 5%ルール 臓器不足に外国人枠 (2007/5/2)
12 ジレンマ 患者は増え続けるが… (2007/5/3)

緊急寄稿 病気腎をめぐって
1 日本移植学会理事 清水信義 提供者保護が不十分 (2007/4/3)
2 泌尿器科医 万波廉介 患者に希望与え得る (2007/4/4)
3 岡山大大学院教授 粟屋剛 問われる「真の倫理」 (2007/4/3)
4 岡山大名誉教授 折田薫三 自ら「第三の道」断つ (2007/4/6)

第2部 命をつなぐ
1 シャント 「いつだめになるか」 (2007/3/10)
2 人工腎臓 70年代 苦難の幕開け (2007/3/11)
3 不安 心通わせるケア必要 (2007/3/13)
4 高齢化 福祉との谷間であえぐ (2007/3/14)
5 腎疾患戦略 糖尿病の発症減らせ (2007/3/15)
6 贈り物 新たな“命”も授かる (2007/3/16)
7 ローカルネット ドナー求め病院巡り (2007/3/19)
8 実らぬ善意 脳死と混同、誤解も (2007/3/20)
9 ドナー発掘 献腎の実績に地域差 (2007/3/22)
10 選択肢 臓器提供の道伝える (2007/3/25)
11 うそ 新たな命に思い複雑 (2007/3/26)

第1部 病気腎の波紋
1 延長線 困っとる患者のために (2007/2/2)
2 原点 どうせ捨てる臓器なら (2007/2/3)
3 迷い 公表「がん」がネック (2007/2/4)
4 独自ルート 「宝くじ」の確率なら (2007/2/5)
5 ばらずし 海渡る感謝の気持ち (2007/2/6)
6 学会 歴史の中で原則築く (2007/2/8)
7 一人の世界 「怖いことやっている」 (2007/2/9)
8 ドナーの意思 かぎ握る自発的同意 (2007/2/11)
9 出合い頭 公平の原則どう保つ (2007/2/12)
10 臓器売買 「起こるべくして…」 (2007/2/15)
11 うねり 患者の立場から関心を (2007/2/17)
12 パイオニア 情報公開徹底が第一歩 (2007/2/18)

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