| 第4部 生体の光と影 6 ドナーの保護 法による規制不可欠
東京・港区。東京大医科学研究所。武藤香織准教授(36)=医療社会学=が指摘する。
「ドナー(臓器提供者)になることを途中で辞退できる、と記しているのがほぼ半分しかないのは、やはり問題でしょう」
武藤准教授らの研究グループは二〇〇五年、国内四十一の肝移植施設からドナーへの説明文書を集め分析。昨年三月、見直しの提言をまとめた。
「棄権・辞退の権利」がきちんと書いてあったのは56%。「重圧がかかる家族や親族の話し合いの場で辞退の気持ちを守るには、権利を明記した文書の存在が欠かせない」と武藤准教授。
また、手術後に起きる合併症などの記載は93%あるものの、切開部の痛みや傷の大きさ、退院後の生活上の規制は、いずれも10%台にとどまった。「ドナーが知りたいのは、詳しい医学的説明より、具体的な情報。それが、納得や覚悟に通じる」
その上で、提言にはこう盛り込んだ。
<ドナーの理解や納得を得る努力は、医療者側に求められる>
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健康なドナーに心身の負担を強いる生体移植。ドナー保護に向けた動きが、ようやく始まった。
生体肝ドナーの四人に一人は術後に定期的な診察を受けていないとされる。このため、首都大学東京の清水準一准教授(33)=看護学=らは「健康管理手帳」を考案した。
移植した施設が遠方にある場合、居住地域の医療機関でも受診できるよう、移植時のデータなどを記録する。いわばドナーの「身分証明」だ。
約二千部作成。岡山大など希望する肝移植施設に配布した。「医療者側も術後のフォローの必要性に目を向けつつある。今後は、それをどうシステムに反映させていくかだ」と清水准教授。
専門医やコーディネーターによる「ドナー外来」を開設する施設も、ようやく全体の二割を超えた。
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「生体移植は、健康な体にメスを入れ、ドナーという『患者』を一人増やすこと。法律による規制は絶対に必要だ」
政策研究の立場から長年、移植医療にかかわってきた三菱化学生命科学研究所(東京)の〓島(ぬでしま)次郎研究員(46)は話す。
わが国には生体ドナーを守る法律がない。臓器移植法(一九九七年施行)は脳死、心臓死からの移植について定めたもので、生体についての唯一のルールは日本移植学会の倫理指針しかない。
だが、「ドナーは原則、親族に限る。それ以外は倫理委員会の承認を受ける」とある倫理指針も、宇和島徳洲会病院(愛媛県宇和島市)などで発覚した病気腎移植は想定外だった。生体移植は法的にも「危うさ」をはらんでいる。
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国は四月下旬、臓器移植法の運用指針(ガイドライン)に生体移植の項目を追加した改正案を打ち出した。ドナーの自由意思の尊重や手術内容の説明、書面による同意などが柱だ。しかし、手続き面での改正が主で、関係者からは「ドナーが抱える本質的問題に踏み込んでいない」との批判が漏れる。
「脳死移植が増えないのも、生体移植という規制のない『裏口』が開いているから」と島研究員。ドナーを守るためには、(1)移植が可能な続柄の制限強化(2)ドナーの術前から日常生活へ復帰後のケアの保証―を法律に加えるよう主張する。
「日本は脳死の議論にエネルギーをかけすぎた。生体移植への対応を怠ってきたのです」
(注)〓は「木」の右に「勝」 |