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揺れる移植医療
健康な体にメスを入れる生体移植では、ドナーにも常にリスクがつきまとう=岡山大病院
健康な体にメスを入れる生体移植では、ドナーにも常にリスクがつきまとう=岡山大病院
第4部 生体の光と影 4 リスク ドナー死亡、再入院も

 二〇〇三年五月。生体肝移植では群を抜く実績を持つ京都大病院で、最も懸念されたことが現実となった。

 娘に肝臓の一部を提供した母親の死亡。娘には九年前、父親が肝臓を提供していたが、肝炎で容体が悪化。母親の希望で〇二年八月、再移植が行われた。直後に、母親は肝不全や肺炎を併発してこん睡に陥った。

 生体ドナー(臓器提供者)の死亡は国内初だった。調査した日本肝移植研究会は、母親の肝臓にあった疾患を病院側が見誤った上、肝臓を74%も切除したのが原因―との報告をまとめた。

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 臓器移植はドナーがいて初めて成り立つ医療だ。しかし、健康な体にメスを入れる生体移植は、常にリスクがつきまとう。

 岡山県に住む中里裕子さん(38)=仮名。二〇〇三年七月、胆道閉鎖症の長男(14)に肝臓の左葉を提供した。手術後は、強烈な吐き気に何度も襲われた。

 いったん退院したが、二週間後に再入院した。水ものどを通らず、約一カ月で体重は十キロほども落ち込んだ。

 医師からは「肝臓の切除部分が治る過程で他の臓器とくっつき、胃が変形したようだ」と説明された。

 日本肝移植研究会が〇三年までのドナー千四百八十人に初めて行ったアンケートでは、13・8%が手術後の経過が予想より「悪かった」と回答。手術後三カ月までに50%が傷のひきつれや感覚のまひ、35%が疲れやすさを経験していた。吐き気やおう吐は8%だった。

 中里さんは今でも冷え込むと、切開の跡が突っ張ったり、腹の内部に痛みが出るという。

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 研究会が大規模調査に踏み切った背景には、京都大病院での死亡以前から、欧米でドナーの死亡が数例報告されるなど、安全性が徐々に疑問視され始めた経緯がある。

 これには「再生可能」な臓器ゆえの問題が関係する。

 一九八九年、島根医大で小児を対象に始まった生体肝移植。九〇年代に入ると成人同士でも実施され、九九年には小児と成人の比率が逆転した。

 小児だと、ドナーからの摘出は肝臓の約三分の一を占める左葉ですむ。しかし成人は「大きな肝臓」が必要なため、三分の二の右葉の摘出が主流になった。

 「受ける側の体重の0・8%以上の肝臓が理想。大人にも初めは左葉を提供していたが、海外で右葉の摘出例が報告され、国内にも広がった」と岡山大病院の八木孝仁講師(49)。

 だが、その分ドナーの肉体的負担は増す。研究会の調査では、手術後の回復が「悪かった」としたドナーは成人間移植の方が多く、術後の入院期間も長かった。

 生涯にわたり、ドナーの肺機能が15―20%低下する肺移植も同様にリスクがある。岡山大病院では四十七例中、出血によるドナーの再開胸手術が二例あった。

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 「子どもが学校に行けるぐらい元気になれた。移植は後悔してません」

 中里さんはこう言いながらも、「事前にドナーの体へのリスクは聞いてはいたが、予想以上に術後の体調が悪く、つらかった」と振り返る。

 八木講師は「ドナーはサンスクリット語でダーナ、『恵む』という意味。提供は義務ではない。リスクを十分理解した上での、自由な意思決定が大前提」という。

 家族の命と自らのリスクにドナーは向き合う。

 バックナンバー
第5部 足踏み
1 闘い ドナー少数 法に一因 (2007/6/12)
2 戸惑い 救命と脳死 どう対応 (2007/6/13)
3 見えない死 「答え」出すのは家族 (2007/6/14)
4 ダブルスタンダード 矛盾生み現場に混乱 (2007/6/15)
5 約束 カードに刻む妻の思い (2007/6/16)
6 グリーフケア ドナー家族に癒やし (2007/6/18)
7 二つの改正案 節目の年 行方見えず (2007/6/19)
8 15歳の壁 難しい脳死判定課題 (2007/6/20)
9 脳死論議再び 国を二分、見えぬ出口 (2007/6/21)
10 枠組み 専門機関の新設必要 (2007/6/22)
11 アジアの苦悩 進まぬ脳死への理解 (2007/6/24)
12 夢 免疫寛容の謎解明へ (2007/6/25)
13 宝物 問われる命のリレー (2007/6/26)

第4部 生体の光と影
1 プレゼント 元気くれた母の肝臓 (2007/5/25)
2 宿命 リスクと向き合う選択 (2007/5/27)
3 2人の肺 葛藤から感謝へ変化 (2007/5/28)
4 リスク ドナー死亡、再入院も (2007/5/30)
5 重圧 家族に暗黙の強制力 (2007/6/1)
6 ドナーの保護 法による規制不可欠 (2007/6/2)
7 ケアの要 患者、ドナーに安心を (2007/6/3)
8 現実 緊急避難 今や“主流” (2007/6/4)

第3部 アメリカからの報告
1 みらいちゃん 日本で打つ手なく渡航 (2007/4/17)
2 ジグソーパズル 多臓器 (2007/4/18)
3 ゴッド・ハンド 40年間 世界をリード (2007/4/21)
4 UNOSの今 臓器不足に対応苦慮 (2007/4/22)
5 腎疾患戦略 糖尿病の発症減らせ (2007/4/24)
6 “B級臓器” エイズ陽性でも活用 (2007/4/26)
7 ドナー交換 「生体」際限なく拡大 (2007/4/27)
8 ギフト・オブ・ライフ 脳死患者の情報機関 (2007/4/29)
9 報酬制度 臓器売買懸念の声も (2007/4/30)
10 誇り 生き続ける娘の遺志 (2007/5/1)
11 5%ルール 臓器不足に外国人枠 (2007/5/2)
12 ジレンマ 患者は増え続けるが… (2007/5/3)

緊急寄稿 病気腎をめぐって
1 日本移植学会理事 清水信義 提供者保護が不十分 (2007/4/3)
2 泌尿器科医 万波廉介 患者に希望与え得る (2007/4/4)
3 岡山大大学院教授 粟屋剛 問われる「真の倫理」 (2007/4/3)
4 岡山大名誉教授 折田薫三 自ら「第三の道」断つ (2007/4/6)

第2部 命をつなぐ
1 シャント 「いつだめになるか」 (2007/3/10)
2 人工腎臓 70年代 苦難の幕開け (2007/3/11)
3 不安 心通わせるケア必要 (2007/3/13)
4 高齢化 福祉との谷間であえぐ (2007/3/14)
5 腎疾患戦略 糖尿病の発症減らせ (2007/3/15)
6 贈り物 新たな“命”も授かる (2007/3/16)
7 ローカルネット ドナー求め病院巡り (2007/3/19)
8 実らぬ善意 脳死と混同、誤解も (2007/3/20)
9 ドナー発掘 献腎の実績に地域差 (2007/3/22)
10 選択肢 臓器提供の道伝える (2007/3/25)
11 うそ 新たな命に思い複雑 (2007/3/26)

第1部 病気腎の波紋
1 延長線 困っとる患者のために (2007/2/2)
2 原点 どうせ捨てる臓器なら (2007/2/3)
3 迷い 公表「がん」がネック (2007/2/4)
4 独自ルート 「宝くじ」の確率なら (2007/2/5)
5 ばらずし 海渡る感謝の気持ち (2007/2/6)
6 学会 歴史の中で原則築く (2007/2/8)
7 一人の世界 「怖いことやっている」 (2007/2/9)
8 ドナーの意思 かぎ握る自発的同意 (2007/2/11)
9 出合い頭 公平の原則どう保つ (2007/2/12)
10 臓器売買 「起こるべくして…」 (2007/2/15)
11 うねり 患者の立場から関心を (2007/2/17)
12 パイオニア 情報公開徹底が第一歩 (2007/2/18)

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