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揺れる移植医療
ゴールデンウイークに再会した広田さん親子。元子さんは息子の大学生活に不安を感じながらも、たくましく思っている=今月5日、岡山市
ゴールデンウイークに再会した広田さん親子。元子さんは息子の大学生活に不安を感じながらも、たくましく思っている=今月5日、岡山市
第4部 生体の光と影 2 宿命 リスクと向き合う選択

 臓器移植を受けた患者には、将来にわたって二つの「宿命」がついて回る。拒絶反応と感染症への不安だ。

 二〇〇二年、岡山大病院で母親の広田元子さん(49)=岡山市江崎=から生体肝移植を受けた長男祐一さん(18)。術後一週間でやはり、拒絶反応とみられる発熱がみられた。

 人の体は細菌やウイルスなどの外敵を排除する免疫機能を持つ。移植された臓器は「他人」のもの。異物とみなして攻撃されないためには、免疫抑制剤の服用が生涯欠かせない。だが、それは一方で、抵抗力を奪い、肺炎など感染症のリスクを高める。

 「命にかかわるような拒絶反応は二週間以内にでやすい。患者の三割から四割は何らかの拒絶反応を経験する」。祐一さんに移植手術をした岡山大病院の八木孝仁講師(49)はいう。

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 祐一さんは一日に計十錠、二種類の免疫抑制剤を服用する。幸い、大きな拒絶反応などはその後にない。だが、発熱やおう吐のたび、親子は不安な思いで岡山大病院に駆け込んだ。

 初めはいやいや薬を飲む祐一さんを、元子さんは「飲まないと命にかかわるのよ」と諭してきた。副作用もある。糖尿病やけいれんの誘発、腎障害、多毛…。胆道閉鎖症の子どもを持つ親の集まりでも、話題の多くはそこへいく。

 祐一さんは四月から、関西の福祉系大学の介護福祉学科に進んだ。親元を離れ、今後は厳しい自己管理が必要になる。「闘病中はこんな日が来るとは夢にも思ってもいなかった」。元子さんはうれしさの半面、ちょっぴり不安も抱えた。

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 広田さん一家には今、重くのしかかる問題がある。

 年に百万―二百万円とされる高額な免疫抑制剤の費用負担だ。現在は胆道閉鎖症が「小児慢性特定疾患」に指定されており、自己負担はごく一部。しかし、祐一さんが二十歳になれば適用を外れる。月々数万円の負担が生じることになる。

 また、腎臓や肺などの移植患者と違い、肝移植患者には障害者手帳が交付されない。「胆道閉鎖症の子どもを守る会」(本部・東京)では厚生労働省への要望活動などしているが、改善される兆しはない。

 「夫や私が元気で働いているうちはまだいいが、その先どうなるか…」と元子さん。

 祐一さんも将来を真剣に考えている。介護福祉士と社会福祉士の資格を取り、少しでも就職に有利にしたいという。

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 祐一さんは今年のゴールデンウイーク、ほぼひと月ぶりに帰省した。

 大学ではサークル活動のドラムに熱中。朝寝坊して薬を飲み忘れ、あわてて寮に帰ることもあるが、健康管理には人一倍気を付ける。「大学は想像以上に面白い。もし移植してなかったら、今ごろは全然違う生活だった」

 元子さんは、しみじみと言う。

 「移植は『選択の医療』だと思う。しないと生きていけないけど、金銭面やリスクも含めて『しない』という選択だってある。うちは結果として、元気をもらえた」

 一九九六年以来、岡山大病院が手掛けた生体肝移植は百六十六例。五年生存率は八割を超えた。胆道閉鎖症の子どもは十五人が移植を受け、術後のリスクと向き合いながらも、全員が生存している。

 バックナンバー
第5部 足踏み
1 闘い ドナー少数 法に一因 (2007/6/12)
2 戸惑い 救命と脳死 どう対応 (2007/6/13)
3 見えない死 「答え」出すのは家族 (2007/6/14)
4 ダブルスタンダード 矛盾生み現場に混乱 (2007/6/15)
5 約束 カードに刻む妻の思い (2007/6/16)
6 グリーフケア ドナー家族に癒やし (2007/6/18)
7 二つの改正案 節目の年 行方見えず (2007/6/19)
8 15歳の壁 難しい脳死判定課題 (2007/6/20)
9 脳死論議再び 国を二分、見えぬ出口 (2007/6/21)
10 枠組み 専門機関の新設必要 (2007/6/22)
11 アジアの苦悩 進まぬ脳死への理解 (2007/6/24)
12 夢 免疫寛容の謎解明へ (2007/6/25)
13 宝物 問われる命のリレー (2007/6/26)

第4部 生体の光と影
1 プレゼント 元気くれた母の肝臓 (2007/5/25)
2 宿命 リスクと向き合う選択 (2007/5/27)
3 2人の肺 葛藤から感謝へ変化 (2007/5/28)
4 リスク ドナー死亡、再入院も (2007/5/30)
5 重圧 家族に暗黙の強制力 (2007/6/1)
6 ドナーの保護 法による規制不可欠 (2007/6/2)
7 ケアの要 患者、ドナーに安心を (2007/6/3)
8 現実 緊急避難 今や“主流” (2007/6/4)

第3部 アメリカからの報告
1 みらいちゃん 日本で打つ手なく渡航 (2007/4/17)
2 ジグソーパズル 多臓器 (2007/4/18)
3 ゴッド・ハンド 40年間 世界をリード (2007/4/21)
4 UNOSの今 臓器不足に対応苦慮 (2007/4/22)
5 腎疾患戦略 糖尿病の発症減らせ (2007/4/24)
6 “B級臓器” エイズ陽性でも活用 (2007/4/26)
7 ドナー交換 「生体」際限なく拡大 (2007/4/27)
8 ギフト・オブ・ライフ 脳死患者の情報機関 (2007/4/29)
9 報酬制度 臓器売買懸念の声も (2007/4/30)
10 誇り 生き続ける娘の遺志 (2007/5/1)
11 5%ルール 臓器不足に外国人枠 (2007/5/2)
12 ジレンマ 患者は増え続けるが… (2007/5/3)

緊急寄稿 病気腎をめぐって
1 日本移植学会理事 清水信義 提供者保護が不十分 (2007/4/3)
2 泌尿器科医 万波廉介 患者に希望与え得る (2007/4/4)
3 岡山大大学院教授 粟屋剛 問われる「真の倫理」 (2007/4/3)
4 岡山大名誉教授 折田薫三 自ら「第三の道」断つ (2007/4/6)

第2部 命をつなぐ
1 シャント 「いつだめになるか」 (2007/3/10)
2 人工腎臓 70年代 苦難の幕開け (2007/3/11)
3 不安 心通わせるケア必要 (2007/3/13)
4 高齢化 福祉との谷間であえぐ (2007/3/14)
5 腎疾患戦略 糖尿病の発症減らせ (2007/3/15)
6 贈り物 新たな“命”も授かる (2007/3/16)
7 ローカルネット ドナー求め病院巡り (2007/3/19)
8 実らぬ善意 脳死と混同、誤解も (2007/3/20)
9 ドナー発掘 献腎の実績に地域差 (2007/3/22)
10 選択肢 臓器提供の道伝える (2007/3/25)
11 うそ 新たな命に思い複雑 (2007/3/26)

第1部 病気腎の波紋
1 延長線 困っとる患者のために (2007/2/2)
2 原点 どうせ捨てる臓器なら (2007/2/3)
3 迷い 公表「がん」がネック (2007/2/4)
4 独自ルート 「宝くじ」の確率なら (2007/2/5)
5 ばらずし 海渡る感謝の気持ち (2007/2/6)
6 学会 歴史の中で原則築く (2007/2/8)
7 一人の世界 「怖いことやっている」 (2007/2/9)
8 ドナーの意思 かぎ握る自発的同意 (2007/2/11)
9 出合い頭 公平の原則どう保つ (2007/2/12)
10 臓器売買 「起こるべくして…」 (2007/2/15)
11 うねり 患者の立場から関心を (2007/2/17)
12 パイオニア 情報公開徹底が第一歩 (2007/2/18)

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