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揺れる移植医療
】刻々とドナー情報が入るギフト・オブ・ライフ本部。ネーサン代表(左)は臓器報酬制度の立法化を目指している=ペンシルベニア州フィラデルフィア
刻々とドナー情報が入るギフト・オブ・ライフ本部。ネーサン代表(左)は臓器報酬制度の立法化を目指している=ペンシルベニア州フィラデルフィア
第3部 アメリカからの報告 9 報酬制度 臓器売買懸念の声も

 「ドナー(臓器提供者)の家族に、お礼を渡せないかと思っているんだ」

 米東部ペンシルベニア州フィラデルフィア。地域臓器調達機関「ギフト・オブ・ライフ・ドナープログラム」のハワード・ネーサン代表が話す。

 寄付金や広報グッズの売り上げの一部を基金化し、ドナーの家族に三百ドル(約三万五千円)程度を支払う。名目は葬式代。州法としての立法化を目指すという。

 「臓器不足は深刻。何とかドナーの掘り起こしをしなければならない。ぜひ報酬制度を実現させたい」

 無償の善意、見返りのない愛の行為―という臓器移植の根幹を揺るがす議論がいま、米国でわき起こっている。

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 米国でも日本と同様、連邦法である臓器移植法で臓器売買は禁止されている。違反すれば罰金刑などが科せられる。ネーサン代表によれば、一九九九年にも同様の法案を成立させようとしたが、州は連邦法を理由に認めなかったという。

 「ただ最近、患者本人に渡すわけではないので、倫理的な問題はないとする論文が発表された。機は熟した。再度挑戦したい」

 ネーサン代表の意見は決して特別なものではない。

 政府が提供者に金銭を支払う仕組みを立法化すべきとするエール大(コネチカット州)の移植医、ドナー家族に二千ドル相当の“金メダル”を渡すシステムを提唱するカリフォルニア大の研究者…。同様の主張は、九〇年代後半から学会やインターネットなどでも盛んに発表されている。

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 「よくない議論だ」

 ペンシルベニア大のアーサー・カプラン教授(生命倫理学)は真っ向から反対する。

 「三百ドル程度ではドナーの増加に結び付かない。かといって、金額を高くすれば臓器売買につながりかねない」

 日本では昨年十月、宇和島徳洲会病院(愛媛県宇和島市)で実施された生体腎移植をめぐり、国内初の臓器売買事件が発覚した。報酬制度には臓器売買の懸念が常につきまとう。

 カプラン教授が特に危(き)惧(ぐ)するのは、ドナーとレシピエント(移植患者)の仲介をインターネット上で行う「マッチング・ドナーズ・ドットコム」などを利用した臓器のやりとりだ。善意を前提としているが、「インターネットにはうそが多い。金銭授受もチェックできない」とカプラン教授は言う。

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 臓器売買が可能な地域も、海外にはある。

 世界の移植事情に詳しく、九七年に米下院の公聴会で証言した経験を持つ岡山大大学院の粟屋剛教授(生命倫理学)によると、イランやイスラエルは売買が合法化されている。フィリピンはブローカーを取り締まる法律はあるが、売買には規制がなく実質的に可能なのだという。

 さらにフィリピン政府は、渡航移植の外国人に臓器提供するドナーに限り、金銭支援する制度の検討を開始した。「世界的な臓器不足を背景に、臓器がすでに金銭的価値を持っている」(粟屋教授)という現実がある。

 移植とは何か。臓器とは何なのか―。そう問うと、カプラン教授は厳しい顔で答えた。

 「人間は臓器販売機ではない。それでは人権や尊厳が保たれなくなる」。報酬がなくても提供が増える仕組みを考えなければいけない、と。

 「人が値札を付けて歩くことは絶対すべきではないんだ」

 バックナンバー
第5部 足踏み
1 闘い ドナー少数 法に一因 (2007/6/12)
2 戸惑い 救命と脳死 どう対応 (2007/6/13)
3 見えない死 「答え」出すのは家族 (2007/6/14)
4 ダブルスタンダード 矛盾生み現場に混乱 (2007/6/15)
5 約束 カードに刻む妻の思い (2007/6/16)
6 グリーフケア ドナー家族に癒やし (2007/6/18)
7 二つの改正案 節目の年 行方見えず (2007/6/19)
8 15歳の壁 難しい脳死判定課題 (2007/6/20)
9 脳死論議再び 国を二分、見えぬ出口 (2007/6/21)
10 枠組み 専門機関の新設必要 (2007/6/22)
11 アジアの苦悩 進まぬ脳死への理解 (2007/6/24)
12 夢 免疫寛容の謎解明へ (2007/6/25)
13 宝物 問われる命のリレー (2007/6/26)

第4部 生体の光と影
1 プレゼント 元気くれた母の肝臓 (2007/5/25)
2 宿命 リスクと向き合う選択 (2007/5/27)
3 2人の肺 葛藤から感謝へ変化 (2007/5/28)
4 リスク ドナー死亡、再入院も (2007/5/30)
5 重圧 家族に暗黙の強制力 (2007/6/1)
6 ドナーの保護 法による規制不可欠 (2007/6/2)
7 ケアの要 患者、ドナーに安心を (2007/6/3)
8 現実 緊急避難 今や“主流” (2007/6/4)

第3部 アメリカからの報告
1 みらいちゃん 日本で打つ手なく渡航 (2007/4/17)
2 ジグソーパズル 多臓器 (2007/4/18)
3 ゴッド・ハンド 40年間 世界をリード (2007/4/21)
4 UNOSの今 臓器不足に対応苦慮 (2007/4/22)
5 腎疾患戦略 糖尿病の発症減らせ (2007/4/24)
6 “B級臓器” エイズ陽性でも活用 (2007/4/26)
7 ドナー交換 「生体」際限なく拡大 (2007/4/27)
8 ギフト・オブ・ライフ 脳死患者の情報機関 (2007/4/29)
9 報酬制度 臓器売買懸念の声も (2007/4/30)
10 誇り 生き続ける娘の遺志 (2007/5/1)
11 5%ルール 臓器不足に外国人枠 (2007/5/2)
12 ジレンマ 患者は増え続けるが… (2007/5/3)

緊急寄稿 病気腎をめぐって
1 日本移植学会理事 清水信義 提供者保護が不十分 (2007/4/3)
2 泌尿器科医 万波廉介 患者に希望与え得る (2007/4/4)
3 岡山大大学院教授 粟屋剛 問われる「真の倫理」 (2007/4/3)
4 岡山大名誉教授 折田薫三 自ら「第三の道」断つ (2007/4/6)

第2部 命をつなぐ
1 シャント 「いつだめになるか」 (2007/3/10)
2 人工腎臓 70年代 苦難の幕開け (2007/3/11)
3 不安 心通わせるケア必要 (2007/3/13)
4 高齢化 福祉との谷間であえぐ (2007/3/14)
5 腎疾患戦略 糖尿病の発症減らせ (2007/3/15)
6 贈り物 新たな“命”も授かる (2007/3/16)
7 ローカルネット ドナー求め病院巡り (2007/3/19)
8 実らぬ善意 脳死と混同、誤解も (2007/3/20)
9 ドナー発掘 献腎の実績に地域差 (2007/3/22)
10 選択肢 臓器提供の道伝える (2007/3/25)
11 うそ 新たな命に思い複雑 (2007/3/26)

第1部 病気腎の波紋
1 延長線 困っとる患者のために (2007/2/2)
2 原点 どうせ捨てる臓器なら (2007/2/3)
3 迷い 公表「がん」がネック (2007/2/4)
4 独自ルート 「宝くじ」の確率なら (2007/2/5)
5 ばらずし 海渡る感謝の気持ち (2007/2/6)
6 学会 歴史の中で原則築く (2007/2/8)
7 一人の世界 「怖いことやっている」 (2007/2/9)
8 ドナーの意思 かぎ握る自発的同意 (2007/2/11)
9 出合い頭 公平の原則どう保つ (2007/2/12)
10 臓器売買 「起こるべくして…」 (2007/2/15)
11 うねり 患者の立場から関心を (2007/2/17)
12 パイオニア 情報公開徹底が第一歩 (2007/2/18)

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