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揺れる移植医療
ギフト・オブ・ライフが製作、臓器提供を呼び掛けるマークが入った車のナンバープレート=ペンシルベニア州フィラデルフィア
ギフト・オブ・ライフが製作、臓器提供を呼び掛けるマークが入った車のナンバープレート=ペンシルベニア州フィラデルフィア
第3部 アメリカからの報告 8 ギフト・オブ・ライフ 脳死患者の情報機関

 アメリカ合衆国誕生の地、ペンシルベニア州フィラデルフィア。一七七六年、独立宣言がこの町で採択された。町並みのあちこちにはゴシック調の歴史的建造物が残る。

 全米に配置された五十八の地域臓器調達機関(OPO)のうち、最も古い組織の一つもここに本部を置く。「ギフト・オブ・ライフ・ドナープログラム」。同州とデラウェア州、ニュージャージー州南部を統括する。臓器提供数は二〇〇四年まで八年連続でトップ(年間平均三百件余り)を占め、最も活動的なOPOとして知られる。

 「全米で二カ所しかない自慢の設備だよ」と、ハワード・ネーサン代表が案内してくれたのは、一階の手術室だった。

 ドナー(臓器提供者)発生病院の手術室がふさがっていれば、ここに搬送し、駆け付けた医師が摘出する。年間二十例程度は行われるという。

 「効率的だろう」。ネーサン代表はエネルギッシュに笑った。

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 照明が落とされた部屋では、スタッフ六人がパソコン画面と向き合っていた。中央の大型スクリーンには患者の名前と性別、病院、家族の同意の有無が映し出される。

 脳死になりそうな患者のリストだ。脳死が確定すると名前の色が変わり、コーディネーターが飛び出していく。常時待機するコーディネーターは三十人に上る。

 米国では一九九八年、死が迫った患者、いわば“ドナー予備軍”の情報を病院がOPOに報告するよう義務付ける連邦法が成立した。ペンシルベニア州では、これに先駆け九四年に導入している。現在、ギフト・オブ・ライフには年間五万件の情報が集まる。うち脳死での臓器提供の可能性があるのは二千件という。

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 しかし、深刻な臓器不足はここでも同じだった。

 「提供に同意しない人も多い。広報にもっと力を入れなければ」とネーサン代表は言う。

 スタッフが免許証を見せてくれた。表に臓器提供の意思が記されている。ドナーカードになっているのだ。

 「ペンシルベニアの免許人口(約八百五十万人)の六割が同意している。更新時に毎回意思を聞くので、しっかり広報して、ノーからイエスに変わる人を増やしたい」

 啓発用のグッズもさまざま。リストバンドやTシャツ、バッジなどなど。「ドネート・ライフ」(命を提供する)のマークが入った車のナンバープレートも製作した。OPOの中には、臓器提供を呼び掛ける独自のCMを流すところもある。

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 ペンシルベニア州ピッツバーグのピッツバーグ大。広報スタッフがDVDを見せてくれた。

 胃、肝臓、膵臓(すいぞう)、小腸…。女性患者の腹部から六つの臓器が取り出されていく。空っぽになった腹腔(ふくくう)に同じ臓器が植え込まれる。

 全米で放送されるドキュメンタリー番組「外科医が私を救う」。毎週一組の医師と患者が登場。手術の生々しいシーンを交えながら、登場する患者の人生や家族模様をたどり、回復するまでの一部始終をカメラが追う。

 「移植の素晴らしさを伝えるには、良くなった患者に証言してもらうのが一番」とスタッフ。

 ギフト・オブ・ライフ(命の贈り物)―。ネーサン代表は、こう話した。「臓器を増やすのに近道はない。われわれは地道にやるしかないんだ」

 バックナンバー
第5部 足踏み
1 闘い ドナー少数 法に一因 (2007/6/12)
2 戸惑い 救命と脳死 どう対応 (2007/6/13)
3 見えない死 「答え」出すのは家族 (2007/6/14)
4 ダブルスタンダード 矛盾生み現場に混乱 (2007/6/15)
5 約束 カードに刻む妻の思い (2007/6/16)
6 グリーフケア ドナー家族に癒やし (2007/6/18)
7 二つの改正案 節目の年 行方見えず (2007/6/19)
8 15歳の壁 難しい脳死判定課題 (2007/6/20)
9 脳死論議再び 国を二分、見えぬ出口 (2007/6/21)
10 枠組み 専門機関の新設必要 (2007/6/22)
11 アジアの苦悩 進まぬ脳死への理解 (2007/6/24)
12 夢 免疫寛容の謎解明へ (2007/6/25)
13 宝物 問われる命のリレー (2007/6/26)

第4部 生体の光と影
1 プレゼント 元気くれた母の肝臓 (2007/5/25)
2 宿命 リスクと向き合う選択 (2007/5/27)
3 2人の肺 葛藤から感謝へ変化 (2007/5/28)
4 リスク ドナー死亡、再入院も (2007/5/30)
5 重圧 家族に暗黙の強制力 (2007/6/1)
6 ドナーの保護 法による規制不可欠 (2007/6/2)
7 ケアの要 患者、ドナーに安心を (2007/6/3)
8 現実 緊急避難 今や“主流” (2007/6/4)

第3部 アメリカからの報告
1 みらいちゃん 日本で打つ手なく渡航 (2007/4/17)
2 ジグソーパズル 多臓器 (2007/4/18)
3 ゴッド・ハンド 40年間 世界をリード (2007/4/21)
4 UNOSの今 臓器不足に対応苦慮 (2007/4/22)
5 腎疾患戦略 糖尿病の発症減らせ (2007/4/24)
6 “B級臓器” エイズ陽性でも活用 (2007/4/26)
7 ドナー交換 「生体」際限なく拡大 (2007/4/27)
8 ギフト・オブ・ライフ 脳死患者の情報機関 (2007/4/29)
9 報酬制度 臓器売買懸念の声も (2007/4/30)
10 誇り 生き続ける娘の遺志 (2007/5/1)
11 5%ルール 臓器不足に外国人枠 (2007/5/2)
12 ジレンマ 患者は増え続けるが… (2007/5/3)

緊急寄稿 病気腎をめぐって
1 日本移植学会理事 清水信義 提供者保護が不十分 (2007/4/3)
2 泌尿器科医 万波廉介 患者に希望与え得る (2007/4/4)
3 岡山大大学院教授 粟屋剛 問われる「真の倫理」 (2007/4/3)
4 岡山大名誉教授 折田薫三 自ら「第三の道」断つ (2007/4/6)

第2部 命をつなぐ
1 シャント 「いつだめになるか」 (2007/3/10)
2 人工腎臓 70年代 苦難の幕開け (2007/3/11)
3 不安 心通わせるケア必要 (2007/3/13)
4 高齢化 福祉との谷間であえぐ (2007/3/14)
5 腎疾患戦略 糖尿病の発症減らせ (2007/3/15)
6 贈り物 新たな“命”も授かる (2007/3/16)
7 ローカルネット ドナー求め病院巡り (2007/3/19)
8 実らぬ善意 脳死と混同、誤解も (2007/3/20)
9 ドナー発掘 献腎の実績に地域差 (2007/3/22)
10 選択肢 臓器提供の道伝える (2007/3/25)
11 うそ 新たな命に思い複雑 (2007/3/26)

第1部 病気腎の波紋
1 延長線 困っとる患者のために (2007/2/2)
2 原点 どうせ捨てる臓器なら (2007/2/3)
3 迷い 公表「がん」がネック (2007/2/4)
4 独自ルート 「宝くじ」の確率なら (2007/2/5)
5 ばらずし 海渡る感謝の気持ち (2007/2/6)
6 学会 歴史の中で原則築く (2007/2/8)
7 一人の世界 「怖いことやっている」 (2007/2/9)
8 ドナーの意思 かぎ握る自発的同意 (2007/2/11)
9 出合い頭 公平の原則どう保つ (2007/2/12)
10 臓器売買 「起こるべくして…」 (2007/2/15)
11 うねり 患者の立場から関心を (2007/2/17)
12 パイオニア 情報公開徹底が第一歩 (2007/2/18)

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