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揺れる移植医療
生体ドナー交換プログラムを実施するクリーブランドクリニック。全米でも最大のネットワークを形成する=オハイオ州
生体ドナー交換プログラムを実施するクリーブランドクリニック。全米でも最大のネットワークを形成する=オハイオ州
第3部 アメリカからの報告 7 ドナー交換 「生体」際限なく拡大

 渡り廊下を通れば、隣は高級感あふれるインターコンチネンタルホテル。院内には六カ国語の通訳サービスがある。最高水準の医療を求め、ここには世界約九十カ国から患者が集まってくる。

 米国屈指の総合病院・クリーブランドクリニック(オハイオ州)。二〇〇四年十一月。この病院で、ある生体腎移植が行われた。地元紙は「生命という名の贈り物の交換」と報じている。

 「生体ドナー(臓器提供者)交換プログラム」。血液型の違いで夫婦間の生体移植を断念した二組の夫婦が、相手を交換して移植した。

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 脳死移植が基本の米国でも、ドナー不足を補うため生体移植が増えている。二〇〇六年は六千七百三十一例。日本(約千四百例=〇五年)の五倍に上る。

 ドナー交換プログラムは、生体移植が可能な組み合わせを、家族や夫婦以外の「他人」との間で見つける方法だ。オランダや韓国でも行われ、日本では〇三年、九州大病院が二組の夫婦間で実施した一例がある。

 クリーブランドクリニックは、近隣の八十病院と提携し、これまでに計十六組の交換プログラムを実施した。腎移植部門を率いるゴールドファブ医師は「今、六十組の夫婦が登録している。私たちのネットワークは全米で最も大きい」と話す。

 「コストを下げることも目的の一つ」ともゴールドファブ医師は言う。

 技術や免疫抑制剤の進歩によって、血液型が異なっても移植は可能になった(ABO血液型不適合移植)。もっとも、事前に血液中の抗体を取り除く血漿(けっしょう)交換と、強力な免疫抑制を行う必要がある。

 問題はその医療費。

 「民間保険が主体の米国ではなかなか認められない。日本とは違う事情がある」

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 インターネットの画面には、家族とともにほほ笑む人物の写真が登場し、呼び掛ける。「この家族のためにも臓器をください」―。

 マサチューセッツ州に本部を置く会員制インターネットサイト「マッチング・ドナーズ・ドットコム」。会員が欲しい臓器や自分の血液型などを登録し、提供してもいいという人を仲介する。二〇〇五年にスタート。約四十件が成立した。

 米国では、臓器売買を禁止する以外、生体の臓器提供に特別なルールはない。無償の善意であれば「他人」でも自由に臓器を提供できる。日本移植学会が倫理指針で提供者を親族に限り、例外は倫理委員会に諮るとしているのとは対照的だ。

 「臓器をくださいと町の看板に広告を出したり、逆に病院に来て『私の臓器を誰かにあげて』と言う人もいる」と、UNOS(全米臓器配分ネットワーク)の担当者は言う。

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 もともと、生体移植は脳死ドナーが極端に少ない日本が先行していた。今、米国の生体ドナーは際限なく拡大しようとしている。

 脳死ドナーの配分にかかわるUNOSも、ネットでの臓器募集などは公平・公正を掲げる臓器移植にとって懸念があるとしながらも、「生体移植は臓器不足に対する解決法の一つになった」と生体ドナー・ネットワークの検討は必要とする。

 ゴールドファブ医師は次のステップを描いている。「臓器をあげたい」というボランティアドナーの参加だ。登録数が百組になれば、適合率は大きく上がるという。

 「現在、倫理委に諮っている。全米でもまだないプログラム。ぜひ成功させたい」

 バックナンバー
第5部 足踏み
1 闘い ドナー少数 法に一因 (2007/6/12)
2 戸惑い 救命と脳死 どう対応 (2007/6/13)
3 見えない死 「答え」出すのは家族 (2007/6/14)
4 ダブルスタンダード 矛盾生み現場に混乱 (2007/6/15)
5 約束 カードに刻む妻の思い (2007/6/16)
6 グリーフケア ドナー家族に癒やし (2007/6/18)
7 二つの改正案 節目の年 行方見えず (2007/6/19)
8 15歳の壁 難しい脳死判定課題 (2007/6/20)
9 脳死論議再び 国を二分、見えぬ出口 (2007/6/21)
10 枠組み 専門機関の新設必要 (2007/6/22)
11 アジアの苦悩 進まぬ脳死への理解 (2007/6/24)
12 夢 免疫寛容の謎解明へ (2007/6/25)
13 宝物 問われる命のリレー (2007/6/26)

第4部 生体の光と影
1 プレゼント 元気くれた母の肝臓 (2007/5/25)
2 宿命 リスクと向き合う選択 (2007/5/27)
3 2人の肺 葛藤から感謝へ変化 (2007/5/28)
4 リスク ドナー死亡、再入院も (2007/5/30)
5 重圧 家族に暗黙の強制力 (2007/6/1)
6 ドナーの保護 法による規制不可欠 (2007/6/2)
7 ケアの要 患者、ドナーに安心を (2007/6/3)
8 現実 緊急避難 今や“主流” (2007/6/4)

第3部 アメリカからの報告
1 みらいちゃん 日本で打つ手なく渡航 (2007/4/17)
2 ジグソーパズル 多臓器 (2007/4/18)
3 ゴッド・ハンド 40年間 世界をリード (2007/4/21)
4 UNOSの今 臓器不足に対応苦慮 (2007/4/22)
5 腎疾患戦略 糖尿病の発症減らせ (2007/4/24)
6 “B級臓器” エイズ陽性でも活用 (2007/4/26)
7 ドナー交換 「生体」際限なく拡大 (2007/4/27)
8 ギフト・オブ・ライフ 脳死患者の情報機関 (2007/4/29)
9 報酬制度 臓器売買懸念の声も (2007/4/30)
10 誇り 生き続ける娘の遺志 (2007/5/1)
11 5%ルール 臓器不足に外国人枠 (2007/5/2)
12 ジレンマ 患者は増え続けるが… (2007/5/3)

緊急寄稿 病気腎をめぐって
1 日本移植学会理事 清水信義 提供者保護が不十分 (2007/4/3)
2 泌尿器科医 万波廉介 患者に希望与え得る (2007/4/4)
3 岡山大大学院教授 粟屋剛 問われる「真の倫理」 (2007/4/3)
4 岡山大名誉教授 折田薫三 自ら「第三の道」断つ (2007/4/6)

第2部 命をつなぐ
1 シャント 「いつだめになるか」 (2007/3/10)
2 人工腎臓 70年代 苦難の幕開け (2007/3/11)
3 不安 心通わせるケア必要 (2007/3/13)
4 高齢化 福祉との谷間であえぐ (2007/3/14)
5 腎疾患戦略 糖尿病の発症減らせ (2007/3/15)
6 贈り物 新たな“命”も授かる (2007/3/16)
7 ローカルネット ドナー求め病院巡り (2007/3/19)
8 実らぬ善意 脳死と混同、誤解も (2007/3/20)
9 ドナー発掘 献腎の実績に地域差 (2007/3/22)
10 選択肢 臓器提供の道伝える (2007/3/25)
11 うそ 新たな命に思い複雑 (2007/3/26)

第1部 病気腎の波紋
1 延長線 困っとる患者のために (2007/2/2)
2 原点 どうせ捨てる臓器なら (2007/2/3)
3 迷い 公表「がん」がネック (2007/2/4)
4 独自ルート 「宝くじ」の確率なら (2007/2/5)
5 ばらずし 海渡る感謝の気持ち (2007/2/6)
6 学会 歴史の中で原則築く (2007/2/8)
7 一人の世界 「怖いことやっている」 (2007/2/9)
8 ドナーの意思 かぎ握る自発的同意 (2007/2/11)
9 出合い頭 公平の原則どう保つ (2007/2/12)
10 臓器売買 「起こるべくして…」 (2007/2/15)
11 うねり 患者の立場から関心を (2007/2/17)
12 パイオニア 情報公開徹底が第一歩 (2007/2/18)

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