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揺れる移植医療
米メディアによるランキング「ベストホスピタル」に毎年名を連ねる総合病院・クリーブランドクリニック。二重腎移植にも取り組んでいる=オハイオ州
米メディアによるランキング「ベストホスピタル」に毎年名を連ねる総合病院・クリーブランドクリニック。二重腎移植にも取り組んでいる=オハイオ州
第3部 アメリカからの報告 6 “B級臓器” エイズ陽性でも活用

 医師が示した人体イラストには、もともと二つしかないはずの腎臓が、体内に四つあった。

 右側に一つ、そして左側には三つ。いずれも大動脈や 膀胱 ( ぼうこう ) とつながっている。「二重腎移植」(デュアル・キドニー・トランスプランツ)と呼ばれる移植だ。

 「移植した二つは、これまでなら移植に適さないために捨てていた腎臓。一つだと機能は50%しかないが、二つなら100%になる。グッドアイデアでしょう」

 米東部、オハイオ州にあるクリーブランドクリニックで、フレックナー医師が自信たっぷりに話した。

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 捨てる臓器の活用―。宇和島徳洲会病院(愛媛県宇和島市)の万波誠医師(66)らによる病気腎移植と同じ発想が、米国では約十年前から脳死移植の現場に広がっていた。

 「高血圧や肝炎、六十歳以上の高齢者は、脳死になってもドナー(臓器提供者)にはなれなかった」と同僚のゴールドファブ医師。

 「しかし今は、使用する臓器の適応基準を広げて、数を確保している」。いわば“B級臓器”。二重腎移植もそうした考えから生まれた。

 背景にあるのは、やはり深刻な臓器不足だ。UNOS(全米臓器配分ネットワーク)も「リスクのある臓器は摘出全体の15%。そのうち(状態の良い)六割は実際に移植に使われる」と話す。

 世界一の脳死肺移植実績を誇るピッツバーグ大は、ドナーの基準を五十五歳以下から七十歳前後にまで引き上げている。エイズも例外ではない。ミシガン大は二〇〇三年からエイズウイルスが陽性でも相手が感染者であれば移植を実施。既に百例を超えたという。

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 「ただし」とゴールドファブ医師。「主治医の判断は、病院の倫理委員会を通らなければならない。正当な手続きとフォローが必要だ」

 日本と同様、がんの臓器移植は米国でも禁忌とされている。万波医師らが根拠の一つとしたシンシナティ大での実施例(十四例)報告について、ゴールドファブ医師は「その程度の数では評価できない」と 一蹴 ( いっしゅう ) した。しかし、こうも付け加える。「議論を重ねれば、将来は使えるようになるかもしれない」

 クリーブランドクリニックでは、「リスクのある臓器でもよい」と登録した患者にだけ、“B級臓器”が使われる。だが腎臓の場合、正常な腎臓に比べ、生着しない率は一・七倍に上昇する。

 それでも推進する理由を、同医師はこう説明した。

 「たとえば、血管がボロボロになった五十代の糖尿病性腎症患者は、移植しなければ確実に死期が早まる。リスクを知った上で移植するか、何もせずに“A級”の脳死ドナーを待つか」

 腎臓の待機期間は平均五年。体が移植に耐えられなくなる可能性もある。「それならB級でも早く移植した方がいいでしょう」

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 全米の移植待機患者は約九万五千人。移植医療界全体にその数字が重くのしかかっている。

 「医療技術の向上もあり、いろんな人がドナーになることが可能になった。でも、ドナーの発生数には限りがあり、それも限界に近づいている」と、米国の生命倫理学研究の第一人者、アーサー・カプラン教授(ペンシルベニア大)。自国の現状をこう表現した。

 「行き着くところまで行ってしまった。それがアメリカだ」

 バックナンバー
第5部 足踏み
1 闘い ドナー少数 法に一因 (2007/6/12)
2 戸惑い 救命と脳死 どう対応 (2007/6/13)
3 見えない死 「答え」出すのは家族 (2007/6/14)
4 ダブルスタンダード 矛盾生み現場に混乱 (2007/6/15)
5 約束 カードに刻む妻の思い (2007/6/16)
6 グリーフケア ドナー家族に癒やし (2007/6/18)
7 二つの改正案 節目の年 行方見えず (2007/6/19)
8 15歳の壁 難しい脳死判定課題 (2007/6/20)
9 脳死論議再び 国を二分、見えぬ出口 (2007/6/21)
10 枠組み 専門機関の新設必要 (2007/6/22)
11 アジアの苦悩 進まぬ脳死への理解 (2007/6/24)
12 夢 免疫寛容の謎解明へ (2007/6/25)
13 宝物 問われる命のリレー (2007/6/26)

第4部 生体の光と影
1 プレゼント 元気くれた母の肝臓 (2007/5/25)
2 宿命 リスクと向き合う選択 (2007/5/27)
3 2人の肺 葛藤から感謝へ変化 (2007/5/28)
4 リスク ドナー死亡、再入院も (2007/5/30)
5 重圧 家族に暗黙の強制力 (2007/6/1)
6 ドナーの保護 法による規制不可欠 (2007/6/2)
7 ケアの要 患者、ドナーに安心を (2007/6/3)
8 現実 緊急避難 今や“主流” (2007/6/4)

第3部 アメリカからの報告
1 みらいちゃん 日本で打つ手なく渡航 (2007/4/17)
2 ジグソーパズル 多臓器 (2007/4/18)
3 ゴッド・ハンド 40年間 世界をリード (2007/4/21)
4 UNOSの今 臓器不足に対応苦慮 (2007/4/22)
5 腎疾患戦略 糖尿病の発症減らせ (2007/4/24)
6 “B級臓器” エイズ陽性でも活用 (2007/4/26)
7 ドナー交換 「生体」際限なく拡大 (2007/4/27)
8 ギフト・オブ・ライフ 脳死患者の情報機関 (2007/4/29)
9 報酬制度 臓器売買懸念の声も (2007/4/30)
10 誇り 生き続ける娘の遺志 (2007/5/1)
11 5%ルール 臓器不足に外国人枠 (2007/5/2)
12 ジレンマ 患者は増え続けるが… (2007/5/3)

緊急寄稿 病気腎をめぐって
1 日本移植学会理事 清水信義 提供者保護が不十分 (2007/4/3)
2 泌尿器科医 万波廉介 患者に希望与え得る (2007/4/4)
3 岡山大大学院教授 粟屋剛 問われる「真の倫理」 (2007/4/3)
4 岡山大名誉教授 折田薫三 自ら「第三の道」断つ (2007/4/6)

第2部 命をつなぐ
1 シャント 「いつだめになるか」 (2007/3/10)
2 人工腎臓 70年代 苦難の幕開け (2007/3/11)
3 不安 心通わせるケア必要 (2007/3/13)
4 高齢化 福祉との谷間であえぐ (2007/3/14)
5 腎疾患戦略 糖尿病の発症減らせ (2007/3/15)
6 贈り物 新たな“命”も授かる (2007/3/16)
7 ローカルネット ドナー求め病院巡り (2007/3/19)
8 実らぬ善意 脳死と混同、誤解も (2007/3/20)
9 ドナー発掘 献腎の実績に地域差 (2007/3/22)
10 選択肢 臓器提供の道伝える (2007/3/25)
11 うそ 新たな命に思い複雑 (2007/3/26)

第1部 病気腎の波紋
1 延長線 困っとる患者のために (2007/2/2)
2 原点 どうせ捨てる臓器なら (2007/2/3)
3 迷い 公表「がん」がネック (2007/2/4)
4 独自ルート 「宝くじ」の確率なら (2007/2/5)
5 ばらずし 海渡る感謝の気持ち (2007/2/6)
6 学会 歴史の中で原則築く (2007/2/8)
7 一人の世界 「怖いことやっている」 (2007/2/9)
8 ドナーの意思 かぎ握る自発的同意 (2007/2/11)
9 出合い頭 公平の原則どう保つ (2007/2/12)
10 臓器売買 「起こるべくして…」 (2007/2/15)
11 うねり 患者の立場から関心を (2007/2/17)
12 パイオニア 情報公開徹底が第一歩 (2007/2/18)

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