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揺れる移植医療
アメリカの移植を支えるUNOS本部。全米に張り巡らされたネットワークの頂点に立つ
アメリカの移植を支えるUNOS本部。全米に張り巡らされたネットワークの頂点に立つ
第3部 アメリカからの報告 4 UNOSの今 臓器不足に対応苦慮

 屈強な警備員。天井には監視カメラ。受付でコンピューターに名前と職業を打ち込み、顔写真を撮影する。最後にパスポートを提示して、館内の身分証が出来上がった。

 米東部バージニア州リッチモンド。UNOS(ユーノス=全米臓器配分ネットワーク)本部は、厳重な管理下に置かれている。

 全米五十八の地域臓器調達機関、二百五十八の病院・移植センターの頂点に立つ、米移植医療システムの中枢に入った。

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 “心臓部”は三階から四階にかけての吹き抜け部分にある。「臓器センター」と名付けられたその部屋はガラス張り。コンピューターの前に常時二人の専門職員が張り付いているのが見える。

 待機患者のデータ、今この瞬間にも発生するドナー(臓器提供者)の情報が二十四時間、リアルタイムで入ってくる。

 頻繁にかかってくる電話は、全国に散らばる移植コーディネーターからだ。脳死患者の性別や年齢、提供臓器の種類など、移植に必要なデータが伝えられる。

 「コンピューターが、待機リストから緊急性や組織適合性、居住地などを考慮して、最適な患者を選び出す。私情やコネが入り込む余地はない」。広報担当責任者のジョエル・ニューマン氏が力説する。掲げる理念は「公正・公平」―。

 UNOSは全米臓器移植法が制定された一九八四年に発足した。それまでは、各地域の臓器調達機関と病院が配分にかかわっていたが、コネが効いたり、金が動いたといわれる。全国ネットワークが生まれたのは、その反省からだった。

 「全米の移植医療を支えている」という自負がスタッフにはある。

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 発足から二十年目の二〇〇三年。システムの根幹を揺るがす事態が起こった。

 カリフォルニア州の病院で、サウジアラビアの患者から依頼を受けた主治医が、より症状が重い別の患者の名前と入れ替え、待機順序を操作したという“事件”だ。

 さらにこの年、南部ノースカロライナ州では、血液型が間違って入力され、移植された患者が死亡するケースもあった。

 ドナーとレシピエント(移植患者)を選び出すのはコンピューター。しかし、カルテを記入し、基となる情報を入力するのは人。機械ではチェックできない落とし穴があることを、これらの事例は示した。

 「一つでも不正やミスがあると、二十年かけて築き上げてきた信頼が一気に崩れてしまう」。ニューマン氏は両手を広げ、上を見上げてみせた。

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 国の移植政策決定にも深くかかわるUNOSが、いま抱える最大の課題は、圧倒的な臓器不足の現状だ。

 国内の移植待機患者は〇七年三月で約九万五千人。日本の待機患者(約一万二千人)の実に八倍に上る。しかし、ドナーの数は待機患者の十分の一以下―年間八千人程度にとどまっている。

 米国は、臓器不足に対応するため、九八年には脳死になりそうな患者の情報を地域臓器調達機関へ報告するよう病院側に義務づける法律をつくった。この結果、年間二千人程度の増加につながったといわれるが、足りない状況に変わりはない。

 ニューマン氏は「脳死でなく心停止からの提供や、これまで使っていなかった臓器、例えば高齢者や病気のものも使わなければならない状況だ」と言った。

 その実態を探るため、再び移植最前線の病院に向かった。

 バックナンバー
第5部 足踏み
1 闘い ドナー少数 法に一因 (2007/6/12)
2 戸惑い 救命と脳死 どう対応 (2007/6/13)
3 見えない死 「答え」出すのは家族 (2007/6/14)
4 ダブルスタンダード 矛盾生み現場に混乱 (2007/6/15)
5 約束 カードに刻む妻の思い (2007/6/16)
6 グリーフケア ドナー家族に癒やし (2007/6/18)
7 二つの改正案 節目の年 行方見えず (2007/6/19)
8 15歳の壁 難しい脳死判定課題 (2007/6/20)
9 脳死論議再び 国を二分、見えぬ出口 (2007/6/21)
10 枠組み 専門機関の新設必要 (2007/6/22)
11 アジアの苦悩 進まぬ脳死への理解 (2007/6/24)
12 夢 免疫寛容の謎解明へ (2007/6/25)
13 宝物 問われる命のリレー (2007/6/26)

第4部 生体の光と影
1 プレゼント 元気くれた母の肝臓 (2007/5/25)
2 宿命 リスクと向き合う選択 (2007/5/27)
3 2人の肺 葛藤から感謝へ変化 (2007/5/28)
4 リスク ドナー死亡、再入院も (2007/5/30)
5 重圧 家族に暗黙の強制力 (2007/6/1)
6 ドナーの保護 法による規制不可欠 (2007/6/2)
7 ケアの要 患者、ドナーに安心を (2007/6/3)
8 現実 緊急避難 今や“主流” (2007/6/4)

第3部 アメリカからの報告
1 みらいちゃん 日本で打つ手なく渡航 (2007/4/17)
2 ジグソーパズル 多臓器 (2007/4/18)
3 ゴッド・ハンド 40年間 世界をリード (2007/4/21)
4 UNOSの今 臓器不足に対応苦慮 (2007/4/22)
5 腎疾患戦略 糖尿病の発症減らせ (2007/4/24)
6 “B級臓器” エイズ陽性でも活用 (2007/4/26)
7 ドナー交換 「生体」際限なく拡大 (2007/4/27)
8 ギフト・オブ・ライフ 脳死患者の情報機関 (2007/4/29)
9 報酬制度 臓器売買懸念の声も (2007/4/30)
10 誇り 生き続ける娘の遺志 (2007/5/1)
11 5%ルール 臓器不足に外国人枠 (2007/5/2)
12 ジレンマ 患者は増え続けるが… (2007/5/3)

緊急寄稿 病気腎をめぐって
1 日本移植学会理事 清水信義 提供者保護が不十分 (2007/4/3)
2 泌尿器科医 万波廉介 患者に希望与え得る (2007/4/4)
3 岡山大大学院教授 粟屋剛 問われる「真の倫理」 (2007/4/3)
4 岡山大名誉教授 折田薫三 自ら「第三の道」断つ (2007/4/6)

第2部 命をつなぐ
1 シャント 「いつだめになるか」 (2007/3/10)
2 人工腎臓 70年代 苦難の幕開け (2007/3/11)
3 不安 心通わせるケア必要 (2007/3/13)
4 高齢化 福祉との谷間であえぐ (2007/3/14)
5 腎疾患戦略 糖尿病の発症減らせ (2007/3/15)
6 贈り物 新たな“命”も授かる (2007/3/16)
7 ローカルネット ドナー求め病院巡り (2007/3/19)
8 実らぬ善意 脳死と混同、誤解も (2007/3/20)
9 ドナー発掘 献腎の実績に地域差 (2007/3/22)
10 選択肢 臓器提供の道伝える (2007/3/25)
11 うそ 新たな命に思い複雑 (2007/3/26)

第1部 病気腎の波紋
1 延長線 困っとる患者のために (2007/2/2)
2 原点 どうせ捨てる臓器なら (2007/2/3)
3 迷い 公表「がん」がネック (2007/2/4)
4 独自ルート 「宝くじ」の確率なら (2007/2/5)
5 ばらずし 海渡る感謝の気持ち (2007/2/6)
6 学会 歴史の中で原則築く (2007/2/8)
7 一人の世界 「怖いことやっている」 (2007/2/9)
8 ドナーの意思 かぎ握る自発的同意 (2007/2/11)
9 出合い頭 公平の原則どう保つ (2007/2/12)
10 臓器売買 「起こるべくして…」 (2007/2/15)
11 うねり 患者の立場から関心を (2007/2/17)
12 パイオニア 情報公開徹底が第一歩 (2007/2/18)

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