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揺れる移植医療
次々とドナー情報が入ってくるUNOS本部。圧倒的な臓器不足の米国は今、大きな曲がり角を迎えていた=バージニア州
次々とドナー情報が入ってくるUNOS本部。圧倒的な臓器不足の米国は今、大きな曲がり角を迎えていた=バージニア州
第3部 アメリカからの報告 12 ジレンマ 患者は増え続けるが…

 「決して夢物語ではない」。ピッツバーグ大(ペンシルベニア州)のデビット・クーパー教授はそう言って胸を張った。

 動物の臓器をヒトに移植する異種移植研究の第一人者。最近の実験で、ブタの膵島(すいとう)細胞を糖尿病のサルに移植。数カ月間にわたって糖をコントロールすることに成功した。

 全米の移植待機患者は約九万五千人。異種移植は、傷んだ臓器や組織を修復する再生医療と並び、将来の大きな柱の一つとも言われている。

 「臓器不足の解決には動物の臓器を使うしかない。なぜかって? 必要な時にいつでも手に入るからさ」

 しかし、動物は未知のウイルスを持つ可能性がある。ヒトが激しい拒絶反応を起こすことも予想される。倫理問題も絡み、当面の実現性は低い。

 「でも」と、クーパー教授は言う。「臓器移植も最初は失敗の連続だったんだ」

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 連載第3部は、移植先進国・米国の最前線を訪ねた。そこにあったのは圧倒的な臓器不足の現実と、その解決策を探して模索する姿だった。

 移植医療が進展すればするほど、移植を必要とする患者も増え続け、臓器が足りなくなるというジレンマ。高齢者や肝炎など従来は移植に適さないとされてきた“B級臓器”の活用や、延命治療を中止しての臓器提供(NHBD)など対象の拡大は、まるで手段を選ばず臓器をかき集めているかのようにも見えた。

 常に移植医療のトップランナーだった米国は、大きな曲がり角を迎えている。

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 多民族国家、格差社会・アメリカの一面も垣間見えた。

 クリーブランドクリニック(オハイオ州)で黒人を対象にした外来を開くモデュリン医師によると、全米人口のうち12%の黒人が、腎不全患者に占める割合は四割にも達するという。

 「歴史の中で差別を受け、低所得者が多い。移植という選択肢を知らない人も少なくない。実際、UNOS(全米臓器配分ネットワーク)の待機リストの多くは白人だ」とモデュリン医師。

 移植医療が抱える倫理的な問題の拡大を危惧(きぐ)する声も聞いた。

 米国では今、あらゆる臓器が移植の対象になる。顔面、手、喉頭(こうとう)、卵巣、子宮…。その多様さは、まさにアメリカ的ともいえる。

 「でもそれは、あまりに実験的で危険だ」と、ペンシルベニア大のアーサー・カプラン教授(生命倫理学)は話す。

 「例えば顔面移植。死んだドナーの顔を持つことを、レシピエント(患者)やその家族は受け入れられるだろうか。事態はもはや医療を超えて、個人とは何かというアイデンティティーの問題になっている」

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 日本では昨秋、宇和島徳洲会病院(愛媛県宇和島市)などで病気腎移植が発覚した。その発想は、「捨てる臓器」も積極的に使おうとする米国の状況と変わらない。

 「私たちも十数年前は病気の臓器を使うなんて考えられなかった。でも議論のプロセスを経て、いまここにたどり着いている」とUNOSの担当者は言う。

 米国の移植医療の現状を、カプラン教授は「伸びきったゴム」と表現した。行き着くところまで行き、もう伸びる余地がない、という意味だ。

 苦悩するその姿は、日本の移植医療の未来とも重なるのだろうか。

 (臓器移植取材班)

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 第3部終わり。第4部は、生体移植の光と影を見つめる。

 バックナンバー
第5部 足踏み
1 闘い ドナー少数 法に一因 (2007/6/12)
2 戸惑い 救命と脳死 どう対応 (2007/6/13)
3 見えない死 「答え」出すのは家族 (2007/6/14)
4 ダブルスタンダード 矛盾生み現場に混乱 (2007/6/15)
5 約束 カードに刻む妻の思い (2007/6/16)
6 グリーフケア ドナー家族に癒やし (2007/6/18)
7 二つの改正案 節目の年 行方見えず (2007/6/19)
8 15歳の壁 難しい脳死判定課題 (2007/6/20)
9 脳死論議再び 国を二分、見えぬ出口 (2007/6/21)
10 枠組み 専門機関の新設必要 (2007/6/22)
11 アジアの苦悩 進まぬ脳死への理解 (2007/6/24)
12 夢 免疫寛容の謎解明へ (2007/6/25)
13 宝物 問われる命のリレー (2007/6/26)

第4部 生体の光と影
1 プレゼント 元気くれた母の肝臓 (2007/5/25)
2 宿命 リスクと向き合う選択 (2007/5/27)
3 2人の肺 葛藤から感謝へ変化 (2007/5/28)
4 リスク ドナー死亡、再入院も (2007/5/30)
5 重圧 家族に暗黙の強制力 (2007/6/1)
6 ドナーの保護 法による規制不可欠 (2007/6/2)
7 ケアの要 患者、ドナーに安心を (2007/6/3)
8 現実 緊急避難 今や“主流” (2007/6/4)

第3部 アメリカからの報告
1 みらいちゃん 日本で打つ手なく渡航 (2007/4/17)
2 ジグソーパズル 多臓器 (2007/4/18)
3 ゴッド・ハンド 40年間 世界をリード (2007/4/21)
4 UNOSの今 臓器不足に対応苦慮 (2007/4/22)
5 腎疾患戦略 糖尿病の発症減らせ (2007/4/24)
6 “B級臓器” エイズ陽性でも活用 (2007/4/26)
7 ドナー交換 「生体」際限なく拡大 (2007/4/27)
8 ギフト・オブ・ライフ 脳死患者の情報機関 (2007/4/29)
9 報酬制度 臓器売買懸念の声も (2007/4/30)
10 誇り 生き続ける娘の遺志 (2007/5/1)
11 5%ルール 臓器不足に外国人枠 (2007/5/2)
12 ジレンマ 患者は増え続けるが… (2007/5/3)

緊急寄稿 病気腎をめぐって
1 日本移植学会理事 清水信義 提供者保護が不十分 (2007/4/3)
2 泌尿器科医 万波廉介 患者に希望与え得る (2007/4/4)
3 岡山大大学院教授 粟屋剛 問われる「真の倫理」 (2007/4/3)
4 岡山大名誉教授 折田薫三 自ら「第三の道」断つ (2007/4/6)

第2部 命をつなぐ
1 シャント 「いつだめになるか」 (2007/3/10)
2 人工腎臓 70年代 苦難の幕開け (2007/3/11)
3 不安 心通わせるケア必要 (2007/3/13)
4 高齢化 福祉との谷間であえぐ (2007/3/14)
5 腎疾患戦略 糖尿病の発症減らせ (2007/3/15)
6 贈り物 新たな“命”も授かる (2007/3/16)
7 ローカルネット ドナー求め病院巡り (2007/3/19)
8 実らぬ善意 脳死と混同、誤解も (2007/3/20)
9 ドナー発掘 献腎の実績に地域差 (2007/3/22)
10 選択肢 臓器提供の道伝える (2007/3/25)
11 うそ 新たな命に思い複雑 (2007/3/26)

第1部 病気腎の波紋
1 延長線 困っとる患者のために (2007/2/2)
2 原点 どうせ捨てる臓器なら (2007/2/3)
3 迷い 公表「がん」がネック (2007/2/4)
4 独自ルート 「宝くじ」の確率なら (2007/2/5)
5 ばらずし 海渡る感謝の気持ち (2007/2/6)
6 学会 歴史の中で原則築く (2007/2/8)
7 一人の世界 「怖いことやっている」 (2007/2/9)
8 ドナーの意思 かぎ握る自発的同意 (2007/2/11)
9 出合い頭 公平の原則どう保つ (2007/2/12)
10 臓器売買 「起こるべくして…」 (2007/2/15)
11 うねり 患者の立場から関心を (2007/2/17)
12 パイオニア 情報公開徹底が第一歩 (2007/2/18)

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