トップ>>特集>>揺れる移植医療 サイトマップ >お問い合わせ
揺れる移植医療
事故で亡くしたエミーさんの写真を見る三井さん。臓器移植のため渡米してくる日本人家族を支援している=フロリダ州
事故で亡くしたエミーさんの写真を見る三井さん。臓器移植のため渡米してくる日本人家族を支援している=フロリダ州
第3部 アメリカからの報告 11 5%ルール 臓器不足に外国人枠

 「マイアミのお母さん」―。三井和美さん(58)はそう呼ばれる。

 米軍兵士と結婚して約四十年前に渡米。今は南部フロリダ州マイアミの地で、日本人向けの旅行会社を経営する。空港への出迎えや観光案内の傍ら、臓器移植のために渡米してくる日本人家族の滞在の面倒を見る。

 きっかけは、マイアミ大ジャクソン記念病院の加藤友朗准教授(43)からの相談だった。同病院は、米国でも先進的な小児の多臓器移植を手掛ける。これまで、日本で移植がかなわなかった三組の患者・家族とかかわってきた。昨年十月に移植手術をした山下みらいちゃん(1つ)=愛知県春日井市=もその一人だ。

 「不安なのは病気だけじゃない。(滞在中の)アパートの賃貸や電話の設置など、見ず知らずの海外での生活は大変なこと。少しでもお手伝いできればと思って」

 しかし、こうも思う。

 「なぜ、日本の子どもは自分の国で移植できないの。なぜ、アメリカに来なければいけないの。すごく疑問を感じる」

   □   ■

 世界中から患者が集まる移植先進国・アメリカ。だが、国内では約九万五千人が移植手術を待つ。慢性的な臓器不足。際限なく移植が行える状況ではない。

 バージニア州リッチモンドにあるUNOS(全米臓器配分ネットワーク)本部で、広報担当責任者のジョエル・ニューマン氏が、気になる数字を持ち出した。

 「5%ルール」―。

 外国人として受け入れる移植患者を全体の5%以内にするというUNOSの方針だ。市民権の保持者や米国在住者は除かれるが、日本などからの渡航移植のケースがこれにあたる。

 「病院別に、外国人の比率が5%を超えないようにするルール。国内には、外国人に臓器をあげるべきではないという人もいる。もちろん、絶対ではなく、一つの目安ではあるが」という。

   ■   □

 日本では、十五歳未満がドナーになることを禁止している。臓器移植法施行(一九九七年)以降の十年間で、脳死ドナーはわずか五十三人。国内で移植を待てない日本人患者の渡米が相次ぐ。

 UNOSによると、外国人への移植件数は全体の2~3%。すぐに道が閉ざされるような状況ではない。とはいえ、限られた“パイ”を奪い合えば、いずれ門戸が狭められる可能性はある。

 日本を飛び出し、米国の移植の最前線で活躍する加藤准教授も複雑な表情を見せる。

 「日本人を一人救うことは、アメリカ人が一人脳死にならなければいけない。その現実を、日本の人たちはどう考えているんだろう」

   □   ■

 三井さんは昨年、特別な体験をした。

 バレンタインデーの二月十四日夜。二女のエミー・千佐子・ケリーさんが亡くなった。二十九歳。「プレゼントを買いに行く」と出掛けた矢先の、交通事故だった。

 心臓死だったが、角膜や皮膚を移植に提供し、臓器の一部は研究用に摘出した。これまで支援し、元気になって帰国した日本人家族の笑顔が脳裏に浮かんだからだという。

 「臓器を提供してどれだけの人が助かるか。家族には最初は反対されたけど、仕事を通じて自分が一番よく分かっている。娘もきっとそう思っているはず」

 米国人の「善意」で、多くの日本人の「いのち」が守られる。その矛盾にも向き合いながら、三井さんは日本人家族を励まし続ける。

 バックナンバー
第5部 足踏み
1 闘い ドナー少数 法に一因 (2007/6/12)
2 戸惑い 救命と脳死 どう対応 (2007/6/13)
3 見えない死 「答え」出すのは家族 (2007/6/14)
4 ダブルスタンダード 矛盾生み現場に混乱 (2007/6/15)
5 約束 カードに刻む妻の思い (2007/6/16)
6 グリーフケア ドナー家族に癒やし (2007/6/18)
7 二つの改正案 節目の年 行方見えず (2007/6/19)
8 15歳の壁 難しい脳死判定課題 (2007/6/20)
9 脳死論議再び 国を二分、見えぬ出口 (2007/6/21)
10 枠組み 専門機関の新設必要 (2007/6/22)
11 アジアの苦悩 進まぬ脳死への理解 (2007/6/24)
12 夢 免疫寛容の謎解明へ (2007/6/25)
13 宝物 問われる命のリレー (2007/6/26)

第4部 生体の光と影
1 プレゼント 元気くれた母の肝臓 (2007/5/25)
2 宿命 リスクと向き合う選択 (2007/5/27)
3 2人の肺 葛藤から感謝へ変化 (2007/5/28)
4 リスク ドナー死亡、再入院も (2007/5/30)
5 重圧 家族に暗黙の強制力 (2007/6/1)
6 ドナーの保護 法による規制不可欠 (2007/6/2)
7 ケアの要 患者、ドナーに安心を (2007/6/3)
8 現実 緊急避難 今や“主流” (2007/6/4)

第3部 アメリカからの報告
1 みらいちゃん 日本で打つ手なく渡航 (2007/4/17)
2 ジグソーパズル 多臓器 (2007/4/18)
3 ゴッド・ハンド 40年間 世界をリード (2007/4/21)
4 UNOSの今 臓器不足に対応苦慮 (2007/4/22)
5 腎疾患戦略 糖尿病の発症減らせ (2007/4/24)
6 “B級臓器” エイズ陽性でも活用 (2007/4/26)
7 ドナー交換 「生体」際限なく拡大 (2007/4/27)
8 ギフト・オブ・ライフ 脳死患者の情報機関 (2007/4/29)
9 報酬制度 臓器売買懸念の声も (2007/4/30)
10 誇り 生き続ける娘の遺志 (2007/5/1)
11 5%ルール 臓器不足に外国人枠 (2007/5/2)
12 ジレンマ 患者は増え続けるが… (2007/5/3)

緊急寄稿 病気腎をめぐって
1 日本移植学会理事 清水信義 提供者保護が不十分 (2007/4/3)
2 泌尿器科医 万波廉介 患者に希望与え得る (2007/4/4)
3 岡山大大学院教授 粟屋剛 問われる「真の倫理」 (2007/4/3)
4 岡山大名誉教授 折田薫三 自ら「第三の道」断つ (2007/4/6)

第2部 命をつなぐ
1 シャント 「いつだめになるか」 (2007/3/10)
2 人工腎臓 70年代 苦難の幕開け (2007/3/11)
3 不安 心通わせるケア必要 (2007/3/13)
4 高齢化 福祉との谷間であえぐ (2007/3/14)
5 腎疾患戦略 糖尿病の発症減らせ (2007/3/15)
6 贈り物 新たな“命”も授かる (2007/3/16)
7 ローカルネット ドナー求め病院巡り (2007/3/19)
8 実らぬ善意 脳死と混同、誤解も (2007/3/20)
9 ドナー発掘 献腎の実績に地域差 (2007/3/22)
10 選択肢 臓器提供の道伝える (2007/3/25)
11 うそ 新たな命に思い複雑 (2007/3/26)

第1部 病気腎の波紋
1 延長線 困っとる患者のために (2007/2/2)
2 原点 どうせ捨てる臓器なら (2007/2/3)
3 迷い 公表「がん」がネック (2007/2/4)
4 独自ルート 「宝くじ」の確率なら (2007/2/5)
5 ばらずし 海渡る感謝の気持ち (2007/2/6)
6 学会 歴史の中で原則築く (2007/2/8)
7 一人の世界 「怖いことやっている」 (2007/2/9)
8 ドナーの意思 かぎ握る自発的同意 (2007/2/11)
9 出合い頭 公平の原則どう保つ (2007/2/12)
10 臓器売買 「起こるべくして…」 (2007/2/15)
11 うねり 患者の立場から関心を (2007/2/17)
12 パイオニア 情報公開徹底が第一歩 (2007/2/18)

トップへ>>

 ご意見
 ご意見は〒700-8734、山陽新聞臓器移植取材班=ファクス(086-244-4923)、電子メール(shakai@sanyo.oni.co.jp)。匿名可ですが、連絡先を明記してください。


[ 戻る ]
 [ 山陽新聞社ホームページへ ]

掲載の記事・写真及び、図版の無断転記を禁じます。すべての著作権は山陽新聞社、共同通信社、寄稿者に帰属します。
Copyright © 1996-2012 The Sanyo Shimbun. All Rights Reserved.