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揺れる移植医療
移植コーディネーターの安田さんを講師にした勉強会。ドナー発掘の努力が続く=岡山市の総合病院、1月
移植コーディネーターの安田さんを講師にした勉強会。ドナー発掘の努力が続く=岡山市の総合病院、1月
第2部 命をつなぐ 9 ドナー発掘 献腎の実績に地域差

 「患者さんのご意思に沿えるよう、的確な対応をお願いします」

 岡山市内の総合病院であった看護師勉強会。集まった約百人を前に、安田和広さん(39)が臓器移植への理解を訴えた。

 岡山県臓器バンクの移植コーディネーター。ドナー(臓器提供者)や家族の意思を生かし、公正に臓器移植が行われるよう仲介する。十一年前、病院勤務のソーシャルワーカーから転身した。

 緊迫した臓器提供の現場では、公平な立場で家族の思いを受け止め、説明に徹するが、ふだんは岡山、倉敷市を中心に約二十カ所の医療機関を“巡回”。ICU(集中治療室)や救急病棟のスタッフに最新の移植情報を伝え、声を掛けて歩く。

 「いざという時、迅速に連絡をもらえるよう、顔を売っておくんです」

   □   ■

 「4」「2」「7」「3」「3」「5」「3」「0」「3」「1」―。

 臓器移植法が施行された一九九七年以後の岡山県の年間献腎移植数(うち脳死移植一)だ。安田さんの思いとは裏腹に、数字は伸び悩んでいる。

 しかし、安田さんは「本当に大切なのは『臓器を役立ててほしい』という家族の気持ちを生かしてあげられるかどうかです」と言う。

 だから、提供の意思が実らなかった家族には申し訳なさが残る。献腎の承諾書をもらった後で腎機能が低下し、移植に使えなくなったケースなどだ。

 それでも、希望する透析患者の1・6%(二〇〇六年末)しか献腎移植が受けられない現状は、やはりもどかしい。「最期の場面が近づいたとき、主治医や病院側が『臓器提供』を選択肢の一つとしてもっと家族に提示してもらえれば、数は伸びると思うんですが…」

   ■   □

 献腎移植の実績は都道府県によってかなりの差がある。昨年一年間(脳死を含む)では、多い順に福岡二十四件、愛知二十件、東京十五件。人口には比例していない。続いて静岡(十四件)、北海道、新潟(各十二件)などの“健闘”が目立つ。一方、広島など十五県はゼロ(香川は二件)。

 全国がネットワークで一元化された九五年以降、摘出した腎臓は必ずしも地元で移植できなくなった。公平性を重視した結果だが、「悪平等だ」との声を受け、〇二年からドナーと同じ都道府県内の移植患者を優先的に選ぶ仕組みに変更された。自治体によって差がある献腎移植の実績は、ドナーの掘り起こしの努力が数字に反映されたものともいえる。

 仕組みの変更に伴い、香川県では県内十一病院でワーキンググループを構成。昨年からは、脳死・心停止の患者がドナーカードを所持していながら、家族が提供に不同意だったケースなどの調査を始めた。ドナーの意思を生かすためにスタッフがどう対応すればいいかを探るためだ。

 中心となる香川大医学部の筧善行教授は「自分たちがどう行動すべきかが問われる。県内登録者のために本気でやらねば」と話す。

   □   ■

 昨年十一月に行われた臓器移植に関する内閣府の世論調査。ドナーカードの所持率は前回調査(〇四年八月)の10・5%から7・9%に低下した。移植関係者の危機感は強い。

 日本移植学会の元理事長、太田和夫・東京女子医大名誉教授はこう指摘する。「コーディネーターだけがいくら頑張っても限度がある。移植医や行政と連携し、移植に理解のある救急医をもっと発掘していかねば」

 バックナンバー
第5部 足踏み
1 闘い ドナー少数 法に一因 (2007/6/12)
2 戸惑い 救命と脳死 どう対応 (2007/6/13)
3 見えない死 「答え」出すのは家族 (2007/6/14)
4 ダブルスタンダード 矛盾生み現場に混乱 (2007/6/15)
5 約束 カードに刻む妻の思い (2007/6/16)
6 グリーフケア ドナー家族に癒やし (2007/6/18)
7 二つの改正案 節目の年 行方見えず (2007/6/19)
8 15歳の壁 難しい脳死判定課題 (2007/6/20)
9 脳死論議再び 国を二分、見えぬ出口 (2007/6/21)
10 枠組み 専門機関の新設必要 (2007/6/22)
11 アジアの苦悩 進まぬ脳死への理解 (2007/6/24)
12 夢 免疫寛容の謎解明へ (2007/6/25)
13 宝物 問われる命のリレー (2007/6/26)

第4部 生体の光と影
1 プレゼント 元気くれた母の肝臓 (2007/5/25)
2 宿命 リスクと向き合う選択 (2007/5/27)
3 2人の肺 葛藤から感謝へ変化 (2007/5/28)
4 リスク ドナー死亡、再入院も (2007/5/30)
5 重圧 家族に暗黙の強制力 (2007/6/1)
6 ドナーの保護 法による規制不可欠 (2007/6/2)
7 ケアの要 患者、ドナーに安心を (2007/6/3)
8 現実 緊急避難 今や“主流” (2007/6/4)

第3部 アメリカからの報告
1 みらいちゃん 日本で打つ手なく渡航 (2007/4/17)
2 ジグソーパズル 多臓器 (2007/4/18)
3 ゴッド・ハンド 40年間 世界をリード (2007/4/21)
4 UNOSの今 臓器不足に対応苦慮 (2007/4/22)
5 腎疾患戦略 糖尿病の発症減らせ (2007/4/24)
6 “B級臓器” エイズ陽性でも活用 (2007/4/26)
7 ドナー交換 「生体」際限なく拡大 (2007/4/27)
8 ギフト・オブ・ライフ 脳死患者の情報機関 (2007/4/29)
9 報酬制度 臓器売買懸念の声も (2007/4/30)
10 誇り 生き続ける娘の遺志 (2007/5/1)
11 5%ルール 臓器不足に外国人枠 (2007/5/2)
12 ジレンマ 患者は増え続けるが… (2007/5/3)

緊急寄稿 病気腎をめぐって
1 日本移植学会理事 清水信義 提供者保護が不十分 (2007/4/3)
2 泌尿器科医 万波廉介 患者に希望与え得る (2007/4/4)
3 岡山大大学院教授 粟屋剛 問われる「真の倫理」 (2007/4/3)
4 岡山大名誉教授 折田薫三 自ら「第三の道」断つ (2007/4/6)

第2部 命をつなぐ
1 シャント 「いつだめになるか」 (2007/3/10)
2 人工腎臓 70年代 苦難の幕開け (2007/3/11)
3 不安 心通わせるケア必要 (2007/3/13)
4 高齢化 福祉との谷間であえぐ (2007/3/14)
5 腎疾患戦略 糖尿病の発症減らせ (2007/3/15)
6 贈り物 新たな“命”も授かる (2007/3/16)
7 ローカルネット ドナー求め病院巡り (2007/3/19)
8 実らぬ善意 脳死と混同、誤解も (2007/3/20)
9 ドナー発掘 献腎の実績に地域差 (2007/3/22)
10 選択肢 臓器提供の道伝える (2007/3/25)
11 うそ 新たな命に思い複雑 (2007/3/26)

第1部 病気腎の波紋
1 延長線 困っとる患者のために (2007/2/2)
2 原点 どうせ捨てる臓器なら (2007/2/3)
3 迷い 公表「がん」がネック (2007/2/4)
4 独自ルート 「宝くじ」の確率なら (2007/2/5)
5 ばらずし 海渡る感謝の気持ち (2007/2/6)
6 学会 歴史の中で原則築く (2007/2/8)
7 一人の世界 「怖いことやっている」 (2007/2/9)
8 ドナーの意思 かぎ握る自発的同意 (2007/2/11)
9 出合い頭 公平の原則どう保つ (2007/2/12)
10 臓器売買 「起こるべくして…」 (2007/2/15)
11 うねり 患者の立場から関心を (2007/2/17)
12 パイオニア 情報公開徹底が第一歩 (2007/2/18)

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