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揺れる移植医療
腎症など糖尿病が引き起こす合併症を患者らに説明する看護師。透析患者増加の大きな要因になっている=岡山市の総合病院
腎症など糖尿病が引き起こす合併症を患者らに説明する看護師。透析患者増加の大きな要因になっている=岡山市の総合病院
第2部 命をつなぐ 5 腎疾患戦略 糖尿病の発症減らせ

 東京・霞が関の厚生労働省。七階にある生活習慣病対策室で鈴木章記室長補佐が切り出した。

 「日本人の死因の六割は生活習慣病に起因する。その代表格である糖尿病患者が激増している事態は深刻です」

 同省の調査では、国内の糖尿病患者は約七百四十万人。予備軍を含めると計千六百二十万人に達する。五年間で20%も増加した。

 将来、脳卒中や心筋梗(こう)塞(そく)、そして腎疾患から人工透析に移行するリスクの高い人たちだ。

 透析医療をめぐる最大の課題は、糖尿病が原因の腎臓病患者をどう抑制するかにある。

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 「昔からあちこち悪いところばかりで。いずれ透析になるのも覚悟していたけど…」。岡山市南部の松田明子さん(69)=仮名=はため息をつく。

 夫の市治さん(70)=同=のことだ。四十代前半で糖尿病を患い、五十五歳の時に脳梗塞で左半身がまひ。車いすでの生活になった。

 両目の視力が低下する網膜症、さらに六十歳で糖尿病性腎症に進行。何とか投薬治療でしのいでいたが、昨年暮れの深夜、激しい胸の痛みに襲われ、救急車で運ばれた。病院で待っていたのは透析の“宣告”だった。

 松田さんのようなケースが最近増えている。日本透析医学会の調査では、透析患者の原疾患は、腎臓の毛細血管に炎症が起きる慢性糸球体腎炎がずっとトップだった。しかし、一九九八年に糖尿病性腎症が逆転。二〇〇五年に透析を始めた患者(約三万四千五百人)の原疾患をみると、糖尿病性腎症は42%と半数近くに迫り、慢性糸球体腎炎(27%)を大きく引き離している。

 糖尿病性腎症は、透析開始後の治療がより難しい。岡山済生会総合病院の平松信副院長は「既に全身の動脈硬化が進んでいるため、心筋梗塞や脳卒中などの合併症を起こしやすい。治療経過も良くない」という。

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 腎疾患戦略―。厚労省は二〇〇七年度の「戦略的研究」を慢性腎臓病とした。科学研究費による一般公募研究などとは異なり、国が目標を定め、計画を立てるものだ。

 慢性腎疾患―腎不全―透析導入という流れに歯止めを掛けるため、五年間で三億二千五百万円の研究費を投入する。同時に、かかりつけ医と糖尿病、腎臓病の専門医との連携強化を図る。

 予防対策の柱は、〇八年度から導入する新しい健康診断(新健診)。四十歳以上のすべての人を対象に、国民健康保険などの被保険者に実施を義務づけた。これまで漏れがちだった自営業者や主婦などをカバー。内臓脂肪症候群(メタボリックシンドローム)の該当者やその予備軍には、医師や保健師、管理栄養士らが保健指導する。

 こうした対策で「糖尿病の発症を25%減らす」(生活習慣病対策室)のが目標だ。

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 岡山大病院(岡山市鹿田町)の内科外来。一カ月に約千人の糖尿病患者が訪れる。

 同大大学院医歯薬学総合研究科の四方賢一助教授(腎・免疫・内分泌代謝内科学)は「一般的に糖尿病から腎症への移行には五年から十年以上かかるため、自覚症状が乏しい」と言う。

 「治療を継続する人はおよそ半分ぐらい。でも甘く見てはいけないのが糖尿病なんです」

 バックナンバー
第5部 足踏み
1 闘い ドナー少数 法に一因 (2007/6/12)
2 戸惑い 救命と脳死 どう対応 (2007/6/13)
3 見えない死 「答え」出すのは家族 (2007/6/14)
4 ダブルスタンダード 矛盾生み現場に混乱 (2007/6/15)
5 約束 カードに刻む妻の思い (2007/6/16)
6 グリーフケア ドナー家族に癒やし (2007/6/18)
7 二つの改正案 節目の年 行方見えず (2007/6/19)
8 15歳の壁 難しい脳死判定課題 (2007/6/20)
9 脳死論議再び 国を二分、見えぬ出口 (2007/6/21)
10 枠組み 専門機関の新設必要 (2007/6/22)
11 アジアの苦悩 進まぬ脳死への理解 (2007/6/24)
12 夢 免疫寛容の謎解明へ (2007/6/25)
13 宝物 問われる命のリレー (2007/6/26)

第4部 生体の光と影
1 プレゼント 元気くれた母の肝臓 (2007/5/25)
2 宿命 リスクと向き合う選択 (2007/5/27)
3 2人の肺 葛藤から感謝へ変化 (2007/5/28)
4 リスク ドナー死亡、再入院も (2007/5/30)
5 重圧 家族に暗黙の強制力 (2007/6/1)
6 ドナーの保護 法による規制不可欠 (2007/6/2)
7 ケアの要 患者、ドナーに安心を (2007/6/3)
8 現実 緊急避難 今や“主流” (2007/6/4)

第3部 アメリカからの報告
1 みらいちゃん 日本で打つ手なく渡航 (2007/4/17)
2 ジグソーパズル 多臓器 (2007/4/18)
3 ゴッド・ハンド 40年間 世界をリード (2007/4/21)
4 UNOSの今 臓器不足に対応苦慮 (2007/4/22)
5 腎疾患戦略 糖尿病の発症減らせ (2007/4/24)
6 “B級臓器” エイズ陽性でも活用 (2007/4/26)
7 ドナー交換 「生体」際限なく拡大 (2007/4/27)
8 ギフト・オブ・ライフ 脳死患者の情報機関 (2007/4/29)
9 報酬制度 臓器売買懸念の声も (2007/4/30)
10 誇り 生き続ける娘の遺志 (2007/5/1)
11 5%ルール 臓器不足に外国人枠 (2007/5/2)
12 ジレンマ 患者は増え続けるが… (2007/5/3)

緊急寄稿 病気腎をめぐって
1 日本移植学会理事 清水信義 提供者保護が不十分 (2007/4/3)
2 泌尿器科医 万波廉介 患者に希望与え得る (2007/4/4)
3 岡山大大学院教授 粟屋剛 問われる「真の倫理」 (2007/4/3)
4 岡山大名誉教授 折田薫三 自ら「第三の道」断つ (2007/4/6)

第2部 命をつなぐ
1 シャント 「いつだめになるか」 (2007/3/10)
2 人工腎臓 70年代 苦難の幕開け (2007/3/11)
3 不安 心通わせるケア必要 (2007/3/13)
4 高齢化 福祉との谷間であえぐ (2007/3/14)
5 腎疾患戦略 糖尿病の発症減らせ (2007/3/15)
6 贈り物 新たな“命”も授かる (2007/3/16)
7 ローカルネット ドナー求め病院巡り (2007/3/19)
8 実らぬ善意 脳死と混同、誤解も (2007/3/20)
9 ドナー発掘 献腎の実績に地域差 (2007/3/22)
10 選択肢 臓器提供の道伝える (2007/3/25)
11 うそ 新たな命に思い複雑 (2007/3/26)

第1部 病気腎の波紋
1 延長線 困っとる患者のために (2007/2/2)
2 原点 どうせ捨てる臓器なら (2007/2/3)
3 迷い 公表「がん」がネック (2007/2/4)
4 独自ルート 「宝くじ」の確率なら (2007/2/5)
5 ばらずし 海渡る感謝の気持ち (2007/2/6)
6 学会 歴史の中で原則築く (2007/2/8)
7 一人の世界 「怖いことやっている」 (2007/2/9)
8 ドナーの意思 かぎ握る自発的同意 (2007/2/11)
9 出合い頭 公平の原則どう保つ (2007/2/12)
10 臓器売買 「起こるべくして…」 (2007/2/15)
11 うねり 患者の立場から関心を (2007/2/17)
12 パイオニア 情報公開徹底が第一歩 (2007/2/18)

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