 |
| 患者の高齢化を象徴するように、透析室の入り口にずらり並ぶ車いす=岡山市内 |
第2部 命をつなぐ 4 高齢化 福祉との谷間であえぐ
岡山市に暮らす田宮太郎さん(84)、まつさん(77)夫婦=いずれも仮名。生活費の月約十六万円は年金がすべてだ。ぎりぎりのつましい生活が昨年十二月、激変した。数年前から患っていた太郎さんの腎不全が悪化し、透析に追い込まれたからだ。
透析施設までの約五キロを週三回、介護タクシーで通う。介護保険の自己負担は月約二万円。通院費を確保するため、リハビリや入浴介助のための訪問看護の利用を今月からやめた。
「死ぬまでこんな生活が続くんでしょうか。胸が張り裂けそうです」。まつさんはハンカチを目に当てた。
□ ■
わが国の透析患者は毎年一万人のペースで増えている。二〇〇五年末現在、二十五万七千七百六十五人。数字を押し上げているのが高齢化だ。患者の平均年齢は六三・九歳。十年前より五・九歳、二十年前に比べると十三歳も高い。
「透析技術の向上で患者が長く生きられるようになったことに加え、糖尿病患者が増えて、そこから腎症に移行する人が激増した」。厚生労働省の日下英司・疾病対策課課長補佐は、高齢化の要因をそう分析する。
高血糖により腎臓の血液を濾過(ろか)する糸球体が動脈硬化を起こし、タンパク尿が出るようになる。これが糖尿病性腎症。じわじわと症状が進むため、むくみなどの自覚症状が出たときには既に透析の一歩手前という人が多い。
〇五年、新たに透析が必要になった患者の平均年齢は、六六・二歳に達している。
■ □
東京都内の雑居ビルの一室。全国腎臓病協議会(全腎協)の金子智事務局長は「高齢で車を運転できなかったり、自力歩行が困難になる患者が増えている」と話す。
介助がないと通院できない透析患者は全体の15%、約三万八千人と全腎協は推計する。家族の送迎がない場合の介護タクシーの利用負担は、切実な問題だという。
高齢化は、医療と福祉の谷間に落ちる患者を生んでいる。特別養護老人ホームなどへの入所やショートステイへの受け入れ拒否もその一つ。
透析患者の訪問看護やケアプラン作成に携わる岡山県内の複数のケアマネジャーらが証言する。
「透析施設への送迎ができないとか、容体が急変するリスクがあるからとか…。仕方なく、おつきあいのある医療機関に無理を言い、“社会的入院”をお願いしているのが現実です」
□ ■
医療費の負担が追い打ちをかける。
透析にかかる医療費は患者一人当たり年間約五百万円。全体で約一・三兆円。国民医療費(約三十二兆円=二〇〇四年度)に占める割合は決して小さくない。透析患者の増加は医療費を年々押し上げ、国による透析医療費削減の動きにつながった。
昨年十月の医療制度改革で、一定所得がある患者の自己負担は月額一万円から二万円へ引き上げられた。岡山県では、これまで自己負担分を補ってきた単県医療費公費負担制度が見直され、新たに最大二万円の支出が生じるようになった。
「体が不自由。十分な所得がない…。ぎりぎりの生活をする高齢の透析患者は少なくない。国も県も、もっと目を向けてほしい」。岡山県腎臓病協議会の橋本則夫理事長(71)は絞り出すように言った。「このままでは自殺者がでますよ」 |