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揺れる移植医療
市立札幌病院救命救急センターの面談室。臓器提供の選択肢を家族に伝える救急医も増えている
市立札幌病院救命救急センターの面談室。臓器提供の選択肢を家族に伝える救急医も増えている
第2部 命をつなぐ 10 選択肢 臓器提供の道伝える

 「オプション提示」と関係者は呼ぶ。死期が迫った患者の家族に対して、臓器提供の選択肢(オプション)があると医師が伝えることだ。

 福岡県移植コーディネーターの岩田誠司さん(35)は「緊迫した状況下で、家族が臓器提供のことを思い出したり、考えたりすることは少ない。救急医や脳神経外科医らの一言があれば、提供につながりやすい」と話す。

 福岡県は二〇〇二年以降、オプション提示を積極的に進めている。この年三人だった献腎は、〇六年には全国最多クラスの九人に増加。着実に成果を上げた。

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 ただ、実行はそうたやすくない。患者の救命に全力を尽くす救急医らは、その場で臓器提供の話を持ち出すことに抵抗感が強いためだ。

 福岡県で理解が得られたのには理由がある。

 まず〇二年二月以降、主要病院に看護師らを中心とする「院内コーディネーター」の設置を進めた。患者が終末期に入った段階で、既往歴や感染症の有無などを確認。医学的にドナー(臓器提供者)になり得ると判断すれば、医師にオプション提示を求める。

 〇二年から二年間は「医師が提示したかどうか」を記入する患者の個別調査票を試験的に作成した。現在、県内二十施設に七十八人の院内コーディネーターがおり、医師の背中を後押しする。

 これらの経験をへて実現したのが、家族に向けた意思確認用パンフレットだ。県が作成し、〇五年一月から病院への配布を始めた。内容は、県移植コーディネーターから話を聞いてみるかどうかを問うだけのもの。しかし、実はこれはほとんど例のないことだった。

 臓器移植法では、地方自治体の責務は「一般的な普及啓発」とされ、個別のケースには関与しない。「広い意味での家族への啓発と考えた」(県健康対策課)という積極姿勢は「福岡方式」と呼ばれ、他の自治体の注目を集めた。

 岩田さんは「医療側から『行政の何らかの“お墨付き”があれば声をかけやすいのだが』との声があった」という。

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 救急医らの積極的な動きが目立つ地域もある。

 札幌市の市立札幌病院救命救急センター。鹿野恒医師(40)は三年前、二十代の女性からの献腎に初めてかかわり、「(患者が)生きた証しができた」と喜ぶ家族に接した。それ以後のオプション提示で、これまで十五例の腎提供に結びつけている。

 「家族の最後の願いをかなえることも、終末期医療の一つだと気づいた。救命という『生だけ』の医療ではなく『生と死』を見つめる医療です」

 臓器提供はグリーフケア(悲嘆家族のケア)につながるともいわれる。

 「今は十分実感できる。なぜ、もっと早く取り組まなかったのかと思う」と鹿野医師は言う。

 北海道では道移植医療推進協議会の呼び掛けで〇四年から、救急医や脳外科医らが定期的に集まる意見交換会を始めた。

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 オプション提示が今後、全国に広く浸透していくかどうかは未知数だ。献腎数の伸びは、まだ一部の移植医や救急医、看護師らの熱意に支えられている面が否めない。

 ギフト・オブ・ライフ(命の贈り物)―。医療の現場で、その善意の輪をどう広げていくのか。岩田さんはこう話す。

 「臓器提供の道があることを家族に知らせるだけでいい。お願いではない。後は家族が判断することなんです」

 バックナンバー
第5部 足踏み
1 闘い ドナー少数 法に一因 (2007/6/12)
2 戸惑い 救命と脳死 どう対応 (2007/6/13)
3 見えない死 「答え」出すのは家族 (2007/6/14)
4 ダブルスタンダード 矛盾生み現場に混乱 (2007/6/15)
5 約束 カードに刻む妻の思い (2007/6/16)
6 グリーフケア ドナー家族に癒やし (2007/6/18)
7 二つの改正案 節目の年 行方見えず (2007/6/19)
8 15歳の壁 難しい脳死判定課題 (2007/6/20)
9 脳死論議再び 国を二分、見えぬ出口 (2007/6/21)
10 枠組み 専門機関の新設必要 (2007/6/22)
11 アジアの苦悩 進まぬ脳死への理解 (2007/6/24)
12 夢 免疫寛容の謎解明へ (2007/6/25)
13 宝物 問われる命のリレー (2007/6/26)

第4部 生体の光と影
1 プレゼント 元気くれた母の肝臓 (2007/5/25)
2 宿命 リスクと向き合う選択 (2007/5/27)
3 2人の肺 葛藤から感謝へ変化 (2007/5/28)
4 リスク ドナー死亡、再入院も (2007/5/30)
5 重圧 家族に暗黙の強制力 (2007/6/1)
6 ドナーの保護 法による規制不可欠 (2007/6/2)
7 ケアの要 患者、ドナーに安心を (2007/6/3)
8 現実 緊急避難 今や“主流” (2007/6/4)

第3部 アメリカからの報告
1 みらいちゃん 日本で打つ手なく渡航 (2007/4/17)
2 ジグソーパズル 多臓器 (2007/4/18)
3 ゴッド・ハンド 40年間 世界をリード (2007/4/21)
4 UNOSの今 臓器不足に対応苦慮 (2007/4/22)
5 腎疾患戦略 糖尿病の発症減らせ (2007/4/24)
6 “B級臓器” エイズ陽性でも活用 (2007/4/26)
7 ドナー交換 「生体」際限なく拡大 (2007/4/27)
8 ギフト・オブ・ライフ 脳死患者の情報機関 (2007/4/29)
9 報酬制度 臓器売買懸念の声も (2007/4/30)
10 誇り 生き続ける娘の遺志 (2007/5/1)
11 5%ルール 臓器不足に外国人枠 (2007/5/2)
12 ジレンマ 患者は増え続けるが… (2007/5/3)

緊急寄稿 病気腎をめぐって
1 日本移植学会理事 清水信義 提供者保護が不十分 (2007/4/3)
2 泌尿器科医 万波廉介 患者に希望与え得る (2007/4/4)
3 岡山大大学院教授 粟屋剛 問われる「真の倫理」 (2007/4/3)
4 岡山大名誉教授 折田薫三 自ら「第三の道」断つ (2007/4/6)

第2部 命をつなぐ
1 シャント 「いつだめになるか」 (2007/3/10)
2 人工腎臓 70年代 苦難の幕開け (2007/3/11)
3 不安 心通わせるケア必要 (2007/3/13)
4 高齢化 福祉との谷間であえぐ (2007/3/14)
5 腎疾患戦略 糖尿病の発症減らせ (2007/3/15)
6 贈り物 新たな“命”も授かる (2007/3/16)
7 ローカルネット ドナー求め病院巡り (2007/3/19)
8 実らぬ善意 脳死と混同、誤解も (2007/3/20)
9 ドナー発掘 献腎の実績に地域差 (2007/3/22)
10 選択肢 臓器提供の道伝える (2007/3/25)
11 うそ 新たな命に思い複雑 (2007/3/26)

第1部 病気腎の波紋
1 延長線 困っとる患者のために (2007/2/2)
2 原点 どうせ捨てる臓器なら (2007/2/3)
3 迷い 公表「がん」がネック (2007/2/4)
4 独自ルート 「宝くじ」の確率なら (2007/2/5)
5 ばらずし 海渡る感謝の気持ち (2007/2/6)
6 学会 歴史の中で原則築く (2007/2/8)
7 一人の世界 「怖いことやっている」 (2007/2/9)
8 ドナーの意思 かぎ握る自発的同意 (2007/2/11)
9 出合い頭 公平の原則どう保つ (2007/2/12)
10 臓器売買 「起こるべくして…」 (2007/2/15)
11 うねり 患者の立場から関心を (2007/2/17)
12 パイオニア 情報公開徹底が第一歩 (2007/2/18)

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