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揺れる移植医療
中立性と透明性、公平性を掲げ、脳死など死後の臓器をあっせんする日本臓器移植ネットワークの西日本支部=大阪市
中立性と透明性、公平性を掲げ、脳死など死後の臓器をあっせんする日本臓器移植ネットワークの西日本支部=大阪市
第1部 病気腎の波紋 9 出合い頭 公平の原則どう保つ

 「『捨てる腎臓があればお願いします』と友人に言っている。計画性は全くない。すべて出合い頭」

 病気腎移植が表面化し、宇和島徳洲会病院(愛媛県宇和島市)が初めて開いた二〇〇六年十一月四日の記者会見。報道陣を前に、万波誠医師(66)はためらわずに言った。

 移植するレシピエント(患者)の選定についてはこう説明した。

 「移植手術を二度、三度と受けて、もうドナー(臓器提供者)が見つからない人がいる。そういう人に実施する」

 岡山、香川などの「瀬戸内グループ」の医師仲間による病気腎のやりとり。そこには、移植医療が大原則として築いてきた臓器配分の「公平性」は見当たらない。

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 「公平性いうけどなあ。初めから病気腎を希望する患者さんは一人もおらんわけですよ。順番も何も…。それに、これは登録して順番を待つ死体腎でも生体腎でもない『第三の道』ですから」

 病院一階の診察室。万波誠医師は、会見で語った「出合い頭」の意味をもう一度話した。

 臓器移植法(一九九七年施行)は患者が公平に移植の機会を得られる手続きを定めている。だが、その対象は脳死を含む死後の移植で、生体移植に関してはルールがない。ドナーは原則親族に限るとした日本移植学会の倫理指針があるだけだ。

 「病気腎がたくさん出てきて、ルールができれば公平性を考えてもいいとは思うが。まだそういう段階じゃないじゃろ」

 病気腎移植は昨年九月を最後に行っていない。一度、使える病気腎の摘出手術があり、移植も検討したが、結局断念したという。

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 臓器移植法により国内で唯一、死後の臓器をあっせんする非営利団体の日本臓器移植ネットワーク(臓器ネット)。三大原則として中立性、透明性、公平性を掲げる。

 〇六年末、腎移植の登録者は約一万二千人。レシピエントは厳格に選定される。HLA(白血球の型)の適合度や待機日数など四項目を点数化。コンピューターで優先順位をはじき出す。

 ドナー側と移植医の間には、常に「第三者」の立場で移植コーディネーターが入る。移植医が直接ドナーにかかわると、レシピエントに有利な意思や選択が働くという疑念が残るからだ。

 ネットワーク西日本支部(大阪市)でチーフ移植コーディネーターを務める小中節子さん(56)は「臓器は貴重なドナーの意思。(レシピエントは)厳格なルールで選ばれるべきだ」と話す。「いのちの平等」という信念が仕事を支えている。

 だから「移植医療が社会的な信用を得るには、第三者の存在が絶対に必要だ」と思う。

 ただ、病気腎については戸惑いがある。仮に医学的に認められても、臓器ネットのような公的、中立な機関で扱えるのかどうか。そして「公平な配分」が可能なのか―。

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 「私たちがすべて正しいとは思っていない」

 万波医師の弟で、岡山から病気腎四件を摘出した廉介医師(61)=岡山市=はそう話す。死体腎移植のルールを気にせず、頼ってきた目の前の患者しか見ていないからだ。

 それでも、多くの患者が移植を望んでいる現状をみてほしいと言う。

 「学会などが病気腎移植の妥当性や、どう公平性を確保するかを議論し、何とか病気腎移植の道は残してほしい」

 瀬戸内グループから投げられたボールの行方を、多くの患者たちも注視している。

 バックナンバー
第5部 足踏み
1 闘い ドナー少数 法に一因 (2007/6/12)
2 戸惑い 救命と脳死 どう対応 (2007/6/13)
3 見えない死 「答え」出すのは家族 (2007/6/14)
4 ダブルスタンダード 矛盾生み現場に混乱 (2007/6/15)
5 約束 カードに刻む妻の思い (2007/6/16)
6 グリーフケア ドナー家族に癒やし (2007/6/18)
7 二つの改正案 節目の年 行方見えず (2007/6/19)
8 15歳の壁 難しい脳死判定課題 (2007/6/20)
9 脳死論議再び 国を二分、見えぬ出口 (2007/6/21)
10 枠組み 専門機関の新設必要 (2007/6/22)
11 アジアの苦悩 進まぬ脳死への理解 (2007/6/24)
12 夢 免疫寛容の謎解明へ (2007/6/25)
13 宝物 問われる命のリレー (2007/6/26)

第4部 生体の光と影
1 プレゼント 元気くれた母の肝臓 (2007/5/25)
2 宿命 リスクと向き合う選択 (2007/5/27)
3 2人の肺 葛藤から感謝へ変化 (2007/5/28)
4 リスク ドナー死亡、再入院も (2007/5/30)
5 重圧 家族に暗黙の強制力 (2007/6/1)
6 ドナーの保護 法による規制不可欠 (2007/6/2)
7 ケアの要 患者、ドナーに安心を (2007/6/3)
8 現実 緊急避難 今や“主流” (2007/6/4)

第3部 アメリカからの報告
1 みらいちゃん 日本で打つ手なく渡航 (2007/4/17)
2 ジグソーパズル 多臓器 (2007/4/18)
3 ゴッド・ハンド 40年間 世界をリード (2007/4/21)
4 UNOSの今 臓器不足に対応苦慮 (2007/4/22)
5 腎疾患戦略 糖尿病の発症減らせ (2007/4/24)
6 “B級臓器” エイズ陽性でも活用 (2007/4/26)
7 ドナー交換 「生体」際限なく拡大 (2007/4/27)
8 ギフト・オブ・ライフ 脳死患者の情報機関 (2007/4/29)
9 報酬制度 臓器売買懸念の声も (2007/4/30)
10 誇り 生き続ける娘の遺志 (2007/5/1)
11 5%ルール 臓器不足に外国人枠 (2007/5/2)
12 ジレンマ 患者は増え続けるが… (2007/5/3)

緊急寄稿 病気腎をめぐって
1 日本移植学会理事 清水信義 提供者保護が不十分 (2007/4/3)
2 泌尿器科医 万波廉介 患者に希望与え得る (2007/4/4)
3 岡山大大学院教授 粟屋剛 問われる「真の倫理」 (2007/4/3)
4 岡山大名誉教授 折田薫三 自ら「第三の道」断つ (2007/4/6)

第2部 命をつなぐ
1 シャント 「いつだめになるか」 (2007/3/10)
2 人工腎臓 70年代 苦難の幕開け (2007/3/11)
3 不安 心通わせるケア必要 (2007/3/13)
4 高齢化 福祉との谷間であえぐ (2007/3/14)
5 腎疾患戦略 糖尿病の発症減らせ (2007/3/15)
6 贈り物 新たな“命”も授かる (2007/3/16)
7 ローカルネット ドナー求め病院巡り (2007/3/19)
8 実らぬ善意 脳死と混同、誤解も (2007/3/20)
9 ドナー発掘 献腎の実績に地域差 (2007/3/22)
10 選択肢 臓器提供の道伝える (2007/3/25)
11 うそ 新たな命に思い複雑 (2007/3/26)

第1部 病気腎の波紋
1 延長線 困っとる患者のために (2007/2/2)
2 原点 どうせ捨てる臓器なら (2007/2/3)
3 迷い 公表「がん」がネック (2007/2/4)
4 独自ルート 「宝くじ」の確率なら (2007/2/5)
5 ばらずし 海渡る感謝の気持ち (2007/2/6)
6 学会 歴史の中で原則築く (2007/2/8)
7 一人の世界 「怖いことやっている」 (2007/2/9)
8 ドナーの意思 かぎ握る自発的同意 (2007/2/11)
9 出合い頭 公平の原則どう保つ (2007/2/12)
10 臓器売買 「起こるべくして…」 (2007/2/15)
11 うねり 患者の立場から関心を (2007/2/17)
12 パイオニア 情報公開徹底が第一歩 (2007/2/18)

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